近年、経済的困窮におかれたシングルマザーの中で、性風俗店で働く人たちが増えているという。特に、首都圏に比べて賃金や働き口の面で厳しく、また行政の公的サービスも十分でないという地方都市においては、こうした「性風俗シングルマザー」はどのように仕事と育児をこなし、貧困から脱出しようともがいているのか。

 その実態に迫った坂爪真吾氏の『性風俗シングルマザー 地方都市における女性と子どもの貧困』(集英社新書)より、一部を抜粋して転載する(プライバシー保護の関係上、本記事の事例は事実に基づいたうえで一部内容を変更し、都市名、人名などは仮名にしています)。(全2回の1回目/続きを読む

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離婚できない「隠れシングルマザー」

「夫から、『客とはできるのに、俺とはできないのか』って責められるんです」

 苦々しい表情でつぶやく大柳千夏さん(31歳)は、3歳の娘と8カ月の息子を育てている母親である。

 10代の頃から水商売と風俗で生活してきたが、20代半ばで現在の夫と結婚。S市内の板金・塗装会社で働く夫は、育児に対してはノータッチかつ無関心。部屋で子どもが泣いていても、何もしないでスマホのゲームに熱中している。

 休日に家族で地元のショッピングモールに出かけても、キッズスペースの外側に座って、自宅と同じように黙ってスマホをいじっているだけ。千夏さんが第二子を妊娠している最中も、全く家事を手伝ってくれなかった。

 第二子の出産後、車のローンや家賃の支払い、子どもの医療費や学資保険などの出費がかさみ、夫の収入だけでは家計が回らなくなったため、千夏さんは再びS市内のデリヘルで働き始めた。

 しかし夫にお店のホームページを見られてしまい、働いていることがバレてしまった。なぜ見つけられたのかは、今でも分からない。「すぐにやめるから許してほしい」という約束をして、どうにかその場は収めることができた。

 一度夫にバレた後も、千夏さんは「コールセンターの仕事をしている」と偽って、デリヘルで働き続けている。源氏名を変えて、勤務証明書もお店から出してもらった。アリバイ対策を入念に行うようになったため、今のところは夫にバレていない。