今年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻。開戦当初は、ロシアが短期間に勝利すると見られていたが、ウクライナは首都キーウを防衛し、ロシアは東部など一部地域の占領にとどまった。そして、9月にはウクライナが反攻に転じ、東部地域の奪還に成功。一方、ロシアは戦死者が相次ぎ、国民への“動員令”が発令されるなど、苦境を隠し切れなくなってきた。ロシア・ウクライナで今、何が起きているのか。「週刊文春」の記事を公開する。(初出:「週刊文春」 2022年10月27日 年齢・肩書き等は公開時のまま)

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「国境付近に戒厳令を敷き、小型核兵器を使用すべきだ」

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 10月1日にウクライナとの戦争での核兵器使用を訴えたのは、ロシア連邦を構成するチェチェン共和国の独裁者、ラムザン・カディロフ首長(46)。カディロフは、10月5日には、プーチン大統領から上級大将の称号を授与され、ロシア軍で3番目に高い位となった。

 約3万人の私兵(カディロフツィ)は、ウクライナとの戦争がはじまるとゼレンスキー大統領殺害計画、ザポロジエ原発攻撃や「21世紀のスターリングラード戦」といわれたマリウポリ攻防戦など重要局面に参加し、首都キーウ近郊ブチャの虐殺事件にも関与したとされる。

侵攻直後、日本政府の制裁対象になったカディロフ

 彼自身はプーチン政権内強硬派で通称「戦争党」の一員だ。「戦争党」は、囚人部隊を編成中の民間軍事会社ワグネルのプリゴジン社長、メドベージェフ前大統領ら、プーチンに国民の動員令やウクライナ東・南部四州併合を働き掛けるなどした好戦的なグループを指す。カディロフも、ロシア軍の相次ぐ撤退にショイグ国防相を「弱腰」と批判する。14〜16歳の息子3人を前線に送るとも表明した。

「プーチン大統領は『戦争党』のゾロトフ国家親衛隊長官をショイグ国防相の後任に起用し、カディロフを親衛隊長官に抜擢する見通しだ」と独立系メディアが報じるほど、影響力は増している。国家親衛隊とは6年前、内務省軍などを再編した約30万人の大統領直属部隊だ。