今年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻。開戦当初は、ロシアが短期間に勝利すると見られていたが、ウクライナは首都キーウを防衛し、ロシアは東部など一部地域の占領にとどまった。そして、9月にはウクライナが反攻に転じ、東部地域の奪還に成功。一方、ロシアは戦死者が相次ぎ、国民への“動員令”が発令されるなど、苦境を隠し切れなくなってきた。ロシア・ウクライナで今、何が起きているのか。「週刊文春」の記事を公開する。(初出:「週刊文春」 2022年10月6日 年齢・肩書き等は公開時のまま)

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 ウクライナ侵攻の苦戦で追い詰められたロシアのプーチン大統領が9月21日に発表した動員令は、即日施行された。部分的にせよ動員令の発動は第二次世界大戦以来初となる。

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IT関係者、金融関係者などは徴兵免除に

 当初は200万人の予備役から30万人を動員すると発表されたが、独立系紙は最高120万人の動員を目指していると報じた。徴兵候補者や兵士を支援するロシアの民間人権団体「市民」も、「発表から2日間で、通常の500倍の1万4000件の問い合わせや支援要請があった。パニックだ」とコメントしている。

 全国38都市で反戦デモが起こり、2000人が拘束されたが、そのうち150人以上に招集令状が出されたという。あるデモ参加者は「警察署の別室に連れていかれ、軍事委員なる人物から召喚状を渡され、明日午前11時に入隊事務所に出頭するよう言われた。断ると刑務所行きだと脅された」とSNSに投稿した。

 卒倒して救急車で運ばれたり、恐怖で2階の窓から飛び降りる者も出た。一部の徴兵事務所には火炎瓶が投げ込まれ、シベリアのオムスクでは警官隊と令状を受けた若者の乱闘が起った。

 ロシア人がビザなしで訪問できる国への航空便が満席となりフィンランド、ジョージア、モンゴルなどの国境は、車で長蛇の列だ。動員令が出てから5日間で26万人が出国している。

 しかし、脱出できるのは一部の金持ちだけだ。国外に出られない人は、ネット上で「腕を折る方法」を検索するなど徴兵逃れの方法を模索している。

 独立系メディア「メドゥーザ」は、骨折は数カ月で治るため、「指を1本詰める」と話す若者も紹介する。指がないと兵器が操作できず、確実に徴兵免除になるという。また、医者に賄賂を払って偽の診断書を書いてもらうケースも続出している。