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〈患者中心の医療の理念に反した憂慮すべき事態〉と痛烈に批判

 髙本氏本人が証言する。

「患者さんのご遺族に医療事故調査に詳しい人がいたことから、私に相談があり、カルテや手術の模様を録画したビデオなど関連資料を詳しく検証しました」

 論文によれば、空気を抜いて心筋保護液を注入する必要があるが、空気除去が不十分な状態で注入された可能性が高く、結果、心筋が壊死し、心筋梗塞を発症したと見られると指摘。これを医療事故ではないとする病院側の判断に〈大きな疑問が残る〉とした上で、病院側が事故調査を拒否している点も〈患者中心の医療の理念に反した憂慮すべき事態〉と痛烈に批判した。

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「こうした対応は、医療機関としてあってはならないという想いで執筆しました」(同前)

国立国際医療研究センターの國土理事長(センターのHPより)

 心臓外科医の南淵明宏・昭和大学横浜市北部病院循環器センター教授が言う。

「医療事故調査制度の最大の問題は、医療安全調査機構への報告の判断を医療機関の院長らに任せていること。『医療事故ではない』として報告しない例も少なくない。論文は、そうした現状に警鐘を鳴らす意味で画期的な内容と言えます」

 筆者の取材に対し、病院側は10月13日、「医療事故」として報告する方針である旨を回答。Aさんの兄が亡くなってから実に1年8カ月が経っていた。

“髙本論文”が医療界に突き付けた課題は重い。

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