年上に意見をぶつけても「生意気だ!」と思われないワケ
『流浪の月』の後に公開された『アキラとあきら』は、横浜流星の目が持つ鋭い光を不良少年やアウトローとはちがう、大企業の御曹司という形で演技に生かした映画だった。苦労人の家庭から銀行員になったアキラを演じる竹内涼真の丸く優しい目と、富裕層のエリート一族の厳しい競争の中で育った同名のあきらを演じる横浜流星の細く鋭い目は、映画の中で2人の性格を観客に鮮明に印象付ける。俳優として、そうした強い光のある目を持っていることは何よりも大きな武器になる。
だがそうしたこれまでの横浜流星の鋭い目の光が、『線は、僕を描く』では見事に消えていた。それは『ちはやふる』シリーズを手がけた小泉徳宏監督の演出もあるだろうし、撮影のテクニックもあるかもしれないが、これまでの作品で俳優としての魅力のひとつでもあった危険な匂いを完全に消し去り、まるで一度も殴り合いなどしたことがないような繊細で傷つきやすい青年を演じ切った横浜流星の演技の幅にも感嘆せずにはいられなかった。
「彼も頑固で、僕も頑固だから」と小泉徳宏監督は映画撮影中に何度も横浜流星と議論になったことを明かしている。決して独善的ではなく、体育会系的に年長者に敬意を払う性格でありながら、一方では横浜流星は作品のためには監督に意見をぶつけることを厭わないことでも知られている。
今年公開された映画『嘘喰い』の撮影では、原作と演出を変え、ハーモニカを持たせようとした監督の演出に横浜流星が難色を示し、何度説得されても折れずに結局原作のままとなっただけではなく、脚本でカットされた原作の台詞をアドリブで入れてしまうという俳優としての判断を下したことが話題にもなった。
「生意気だ」とされかねないような行為だが、原作を愛するファンからは「原作を読んでいれば正しい判断にしか思えない」「若いのに骨のある俳優だ、見直した」という喝采の声が多くSNSであがったのも事実だ。結局横浜流星の意見を入れてアドリブも生かした制作側を含め、新しい時代が映画にも来ているということなのだろう。
10月28日放送の『アナザースカイ』で横浜流星は、自分が今、俳優としての分岐点に立っているという心境を語り、「若手イケメン俳優というような呼ばれ方はありがたいことだが、いつまでもそこにはいられない」「ここ1~2年で色々な役をやらせてもらえるようになった」と演技の手ごたえを語っている。
李相日監督の『流浪の月』と小泉徳宏監督の『線は、僕を描く』で横浜流星が演じたのはほとんど正反対の人物像だが、その両方で高い演技力を見せた彼の俳優としての評価はさらに高まるだろう。強さと繊細さ、その両方を演じ分ける彼の印象的な目は、より多くの映画観客をひきつけることになるかもしれない。
そして『青の帰り道』のミニシアター興行に何度も足を運んでいた横浜流星のファンたちは、決して彼の美しさだけではなく、その演技力が世に知られる日を予感していたと思うのだ。