横浜流星は、あの目の険しい光を消すことができるんだな、と公開中の映画『線は、僕を描く』で主人公を演じる彼を見ながら少し驚いていた。主人公の青山霜介は過去に秘密を抱え、水墨画の世界に自己の救済を見出す繊細な青年として描かれる。
映画パンフレットのインタビューの中で、水墨画の師匠を演じる三浦友和が「彼は都会的だし、最初はミスキャストじゃない?と思った。でも撮影現場で会った時には『霜介がいる』と思えた」と振り返るように、これまでの横浜流星のイメージを一新するような線の細い青年を見事に演じている。
これまで不良役やアウトロー役が多かった
俳優の魅力は、時に武器にもなれば凶器にもなる。横浜流星の整った顔と鋭い目は一目で多くの観客を惹きつける強い力を持っているが、同時にその目の強すぎる力は時に「怖そう」「悪そう」という威圧感も与える。横浜流星の過去の出演作にアウトローや不良少年役が多いのは、その目の強い力にキャスティング側が引っ張られた面もあるのだろう。
スタッフやキャストから聞こえてくる横浜流星の評価は、何度か演じた「少しワルい美青年」の役柄とは正反対の「武道家のようにストイックで、礼儀正しい」という正反対の人物評が多い。
「恋人関係を演じるリハーサルとして、監督の指示で膝枕の練習をしてみたら、私に気を使って首を浮かせて、ほとんど膝に頭を預けてくれなかった」と共演した広瀬すずが苦笑しながら明かしたエピソードは、普段の横浜流星の生真面目な性格を物語っている。
だが、広瀬すずが苦笑するほど繊細な横浜流星が『流浪の月』で見せた暴力と荒廃の演技はすさまじいものだった。広瀬すず演じる更紗に依存しながら、彼女を殺しかねないほどの暴力を振るい、それでありながら更紗に執着しつづける狂気の演技は、横浜流星を『第14回TAMA映画賞』で最優秀新進男優賞に導いた。業界のしがらみが少なく、目利きの審査員が実力のある俳優を選ぶ賞として多くの映画ファンが注目するTAMA映画賞を獲得したことは、俳優としての彼の将来に大きく道を開くだろう。
横浜流星が劇中で見せる怒りや攻撃の演技には、あえて言えば、まるで「本物の暴力を知っている」かのような血の匂いのようなものがある。若い彼が人生のどこでそうした演技を身につけたのかはわからない。
よく知られるように、彼が極真空手の少年部で世界大会で優勝するほど空手に打ち込んだ経験や、『ボクらの時代』で自らが話したように、父親に馬乗りで殴られたことがあるというような経験はまったく無関係ではないかもしれないが、それだけではないのではないか。
いくつかの作品の中で彼が断片的に見せる暴力の演技には「修羅場」の経験を感じさせるような凄みがあるのだ。