「大学に入ってから時間ができた分、将棋の勉強を増やしていました。永瀬先生の棋譜を並べて準備しましたが、やはり負けでした。当時の永瀬先生は、受け潰すような負けない将棋を指していました。私との対局もまさにそんな将棋で、私も受け潰してみようと考えるきっかけになりました。攻めるばかりだった私の将棋が少し変わったと思います」
その将棋は永瀬王座の著書『永瀬流 負けない将棋』に紹介されている。プロ同士の対局ばかりが紹介された本に、小山さんとの将棋も入って光栄だったと言う。
プロの将棋を見て流行の戦法を勉強することにも積極的になった。「大学に入ってから強くなったと思っている」という小山さんの将棋倶楽部24のレーティングは、アマトップクラスの2900程度まで上昇。変わらず将棋大会は最優先に考えて出場し、棋譜は残して振り返りもした。一般大会でも大学大会でも、全国大会常連になっていった。
3年生のときは、大学生の個人戦・学生名人戦で優勝。大学将棋部には、同じ大学の仲間の対局を近くで見て応援する文化がある。強豪大学の部員ではない小山さんに「対局相手の応援が多くアウェイ感がなかったか」と問うと、「そんなことあったかな?」という反応で「じゃあ、自分が気にしてなかったんですね」とあっさり。この優勝で3度目の朝日杯出場権を獲得して、三枚堂達也四段(当時)と対局した。
「この中に分け入っていくのか」三段リーグ編入試験の空気感
そして、4年生の9月、アマチュア最高峰タイトルの1つアマ名人戦で優勝。これで棋王戦出場権も獲得し、1回戦で伊藤能七段に勝って、プロ公式戦初勝利を挙げている。
アマ名人の特典として名人との角落ち記念対局もあり、小山さんは当時の羽生名人と対局した。「角落ちなら勝ちたい」と考えていたものの、名人の強さを思い知らされ負け。対局中の厳しさやオーラ、感想戦でアドバイスをくれるにこやかな雰囲気のギャップを感じたという。
初めてのアマタイトルでは、この2つの他に大きな権利を獲得していた。三段リーグ編入試験だ。「私の将棋人生はプロになれるチャンスがあれば積極的にいきたいと考えていました。大き目のチャンスだし、大学を休学して将棋の勉強をすることにしました」。両親はそんな小山さんを理解して応援してくれた。
「この中に分け入っていくのか」。それは、大学将棋でアウェイ感が気にならなかった小山さんでも感じた厳しい雰囲気だった。2016年8月の関東奨励会例会、小山さんにとっての三段リーグ編入試験は、いつも通りのピリピリした空気で始まった。
写真=佐藤亘/文藝春秋
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