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「プロ棋士になりたいから、仕事を辞めます」上司にそう告げた27歳男性の“勝算”とは

「プロ棋士になりたいから、仕事を辞めます」上司にそう告げた27歳男性の“勝算”とは

小山怜央さんインタビュー #3

2022/11/13
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 2015年9月、大学4年生だった小山怜央さんはアマチュア最高峰タイトルの1つ「アマ名人戦」で初タイトルを手にした。そこで得た権利として、「三段リーグ編入試験」に臨んだ。大学を休学して関東奨励会の例会に乗り込むと、場の空気はピリピリしていたという。

小山怜央さん

プロになるチャンスを逃し、一度は就職した

 三段リーグ編入試験は、アマ名人、アマ竜王、アマ王将、朝日アマ、赤旗名人、支部名人の6大アマ大会で全国優勝し、1年以内に申請すれば受験することができる。

 奨励会の例会に参加するかたちで、原則二段(初段の場合も)の会員と1日2局、最大2カ月で8局対戦して、6勝2敗以上で合格だ。棋士編入試験と違うのは、試験対局の相手となる奨励会員にとっても勝ち敗けが例会の成績としてカウントされること。13歳だった藤井聡太二段も、別のアマの編入試験の相手になって負け、その黒星が響いて三段リーグへの参加が半年遅れてしまった。受験者が3敗した時点で試験は打ち切り。合格すれば4期まで三段リーグに在籍できる。

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 この試験はこれまでにのべ11人が受験し、合格したのは今泉健司五段1人だけ。その今泉五段も、4期のうちに四段昇段を果たせずアマに戻っている(その後、アマ枠で出場したプロ棋戦で勝ち星を重ねて、編入試験を受験して四段になった)。したがって、三段リーグ編入試験ルートで棋士になった者はいない。棋士編入試験以上に難しいと言われ、6年前に小山さんがチャレンジした後は受験者もゼロだ。小山さんは、伊藤匠初段を含む初段2人に勝ったものの、二段3人に負けて2勝3敗で不合格だった。

「持ち時間や雰囲気など絶対的に相手が慣れているという難しさはあったし、奨励会の有段者はアマと違ってかなり厳しい雰囲気で指していました。相手と同じ力では勝つのは難しいと言われればそうかもしれません。私の場合は力が足りなかったと思っています」

2015年のアマ竜王戦全国大会で。左が小山怜央さん、右が弟の真央さん。何度も県代表になっている小山さんだが、この時は岩手県大会で負け真央さんが代表に。怜央さんは弟の応援に行った(写真提供・小山怜央さん)

「不合格なら再受験はせず、就職活動をする」と決めていた。2016年の12月にはアマ王将位で優勝し再度受験資格を得たものの、受験はしていない。

 大学の専門を生かせるシステムエンジニアを志望していたら、社会人将棋最強と言われるリコーグループの将棋部の関係者から声がかかり、横浜にあるリコー関連会社の入社試験を受けてシステムエンジニアとして内定をもらった。もともと「好きに生きれば良い」という方針だった両親は、「長男だから地元に」といった類いのことは一切言わずに送り出してくれた。