団体戦の決勝で「2勝2敗で自分の対局が残る」という展開に
「まずは仕事を頑張ろうと思いましたし、将棋の勉強時間は大幅に減りました」という新入社員時代の小山さんだが、週末はやっぱり将棋。
入社早々の2018年4月に行われた職団戦(同じ会社のメンバー5人の団体戦で、グループ会社は同じチームで参加できる)では、最上位S級でリコーチームの一員となった。残りのメンバーは立命館大学と早稲田大学出身が2人ずつ。大学将棋団体戦で日本一を争った経験がないのは小山さんだけ。団体戦に重要なオーダー戦略も分からず、先輩にお任せだった。
「決勝で2勝2敗で私の対局が残るという展開になってしまい、貢献しなければという責任感もあってプレッシャーが。相手の若手のアマタイトル経験者に勝つことができ、先輩たちに『よくやった!』と褒められたのは良い思い出です」
同じ月には、アマ竜王戦神奈川県大会に参加。神奈川は元奨励会三段が何人もいる最激戦区。「岩手と違って神奈川では強い相手を何人も倒さなくては代表になれない」と言いつつも、アマメジャー大会神奈川デビュー戦で代表切符を手にした。
アマがプロ公式戦に出るのはいばらの道だ。最近は奨励会退会者がアマとして復帰することが普通になり、アマ棋界のレベルも上がっている。大都市圏の県大会では強豪が100人近く集まる中、トーナメントを5~7連勝(県代表は1~2名)、さらにレベルが上がり50~60人ほどが参加する全国大会では4~6連勝しないとプロ棋戦には出られない(最もアマ枠が多い朝日杯将棋オープン戦は、朝日アマベスト8の成績で出場できるものの、県大会と全国大会の間にブロック大会がある)。
実力だけではなく、運も体力も短い持ち時間に合わせた戦略も必要だ。この高いハードルをクリアした小山さんは、アマ竜王戦全国大会で準優勝して竜王戦6組出場権を獲得。室岡克彦七段相手に竜王戦での初白星も挙げた。
翌2019年も、アマ竜王戦準優勝と朝日アマ準優勝の成績で竜王戦と朝日杯に出場。小山さんは少しずつプロ公式戦での勝ち星を増やしていく。
「プロ棋士になりたいから」コロナ禍で下した大きな決断
転機となったのが、会社員3年目の2020年だった。新型コロナウイルスの流行で初めて緊急事態宣言が出たこの年、ほとんどの将棋大会が中止になった。プロ棋戦のアマ枠は、アマ全国大会での上位者に与えられるものなので、大会がなければプロ棋戦に出ることもままならない。多くのアマチュアが将棋へのモチベーションを落とす中、小山さんは違った。
「仕事がリモートワークになり、通勤時間がなくなったのです。その時間を使ってまた将棋の勉強に力を入れるようになりました」
恵まれない状況を嘆かずに、できる努力をする。コロナ禍の時だけではない。震災に遭っても、地方にいても、ずっとそうしてきた。本人に努力の自覚がないほど自然に。それが小山怜央の強さだろう。