全国大会で上位に入ったアマチュアやタイトルホルダーなど上位の女流棋士は、プロの公式戦(男性棋戦)に出場できる。出場を重ねた上でさらに継続して好成績を挙げた場合、「棋士編入試験」の受験資格を得ることになる。

 今泉健司五段と折田翔吾五段が合格し、里見香奈女流五冠が不合格となったこの制度に、初めて奨励会未経験者が挑む。いわゆる純粋アマの小山怜央さん(29)だ。

 研修会も強豪が集まる道場もない岩手県釜石市で育ち、トップアマを輩出する大学将棋強豪校の出身でもない。高校生のときに東日本大震災で家を失う経験もした。そんな小山さんの半生をインタビューした。

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小山怜央さん

小山怜央(こやま・れお)

 1993年7月2日岩手県釜石市生まれ。岩手県立釜石高校、岩手県立大学ソフトウェア情報学部卒。2010年朝日アマチュア名人戦全国大会でベスト8に入り17歳でプロ公式戦初出場。2015年アマ名人戦優勝、2016年アマ王将位優勝など6大アマタイトルのうち5つで優勝経験がある。アマ大会の上位者に与えられるプロ公式戦出場経験14回。通算成績13勝13敗。2022年9月にもっとも良いところから見て10勝以上かつ勝率6割5分以上という棋士編入試験受験資格を獲得し、11月28日から月に1局ずつ受験予定。

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小2で将棋と出会い、ネット対局に夢中に

「時間があったから将棋を指したんです。避難所ではそんなにすることもなかったし、指していると落ち着くから」

 2011年の東日本大震災で岩手県釜石市の海沿いにあった自宅を津波で流され、数カ月にわたる避難所暮らしを経験した高校生の小山怜央さんは、毎日のようにネット将棋を指していた。「その苦労で強くなった」という美談を求めていた筆者に小山さんは事もなげに言った。

 時間があれば将棋にあてる。これは「将棋は生活の一部」という小山さんが当たり前のようにしてきたことだ。大学に入ったとき、コロナ禍で緊急事態宣言が出たとき。余裕が増えれば将棋の時間は増えた。

 そして、プロになれるかもしれない大きなチャンスが2回訪れた。1回目は大学4年生のとき、アマ名人戦で優勝して三段リーグ編入試験の受験資格を得た。大学を休学し将棋に専念して受験したものの編入はならなかった。2回目となる今回の棋士編入試験には、勤めていた会社を退職して臨んでいる。