本編では、現行制度では初めて奨励会未経験者としてプロ棋士編入試験に合格した小山怜央さんに、試験中の勉強方法やそれに協力してくれた棋士のエピソード、編入試験と並行して行われた竜王戦で合わせて6回も大阪遠征したこと、そして今後の目標について聞いてみた。
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試験突破には、AI研究だけでなく棋士の協力・応援も
試験に向けての準備は、試験官の棋譜をできる限り調べて戦型のメドをある程度つけ、その戦型の研究をAIで深めるといった方法でやっていた。
当たり前の準備のようだけれど、アマ大会での小山さんはそんな準備はまったくしていない。全国大会であっても大会前夜や当日など直前に抽選で対戦相手が決まることが多いのだ(それでも自分以外の全国大会出場者50~60名全員の棋譜などを調べあげて対策するというアマ強豪もいる)。徹底した相手の研究は、プロ棋士に勝つために始めたことだった。
研究会では、次の試験対局に向けて対策したい戦型を自分から頼むことはそんなになかったものの、気を使って希望の戦型に合わせて指してくれる相手もいた。
その1人が遠山雄亮六段。師匠である北島忠雄七段が、小山さんのためを思ってか一門の研究会(北島門下には女流棋士と奨励会員がいる。棋士になったのは小山さんが初めて)に特別に呼んでくれて知り合い、その後も何度か練習対局に声をかけてくれるようになった。
遠山六段は、小山さんと研究を行うようになった経緯について、
「最初に小山さんと盤を挟んだときに、人生をかけている気迫を感じました。そういう勝負をしている人に遭遇するのはレアでこちらも刺激になること、実力と人柄もあってお声かけをしました。
試験合格を願っていたのは別の事情もあります。私や(師匠の)加瀬一門を長く応援下さった方が岩手県にいて、その方は岩手から棋士が誕生することを願って盛岡で道場を開くなど普及活動をされていたのですが、昨年急逝されました。小山さんが岩手県初の棋士になることを知らずに亡くなられたことは残念でなりません。その方が育てた岩手の少年が加瀬門下で奨励会にいます。小山さんに刺激を受けて、彼にも頑張ってほしいと思っています」
と語ってくれた。
「棋士の先生方に力を貸していただいたことは大変ありがたかったです。奨励会員やアマ強豪などにも、研究会で協力、応援してくれた方はたくさんいました。とても感謝しています」(小山さん)