「またご一緒できるように頑張ります」
「絶対にまたやろうね」
『花束みたいな恋をした』で清原果耶は土井裕泰監督とこのようなやりとりをしていた。『片思い世界』のパンフレットで清原がそう語っている。
4年ぶりの再会、演じたのは?
『花束みたいな』における清原は、出番こそ少ないが極めて重要な役を演じていた。終盤、主人公の麦(菅田将暉)と絹(有村架純)が別れ話をしているファミレスで、仲睦まじく語り合っている水埜亘(細田佳央太)と羽田凛(清原)。ふたりはまるで出会ったばかりの麦と絹の似姿のようで、麦と絹はいつの間にか失ってしまったものに気づいてショックを受ける。
若く希望に満ちてキラキラしていて、おろしたての真っ白なスニーカーのような一点の曇りもない羽田凛という人物を清原果耶は見事に演じていた。清原演じる凛が純粋であればあるほど、有村演じる絹はもう帰ってこないあの日を思って涙が止まらない。観客も然り。
あれから4年、清原は先述の言葉通り土井監督の現場に戻ってきた。それも『花束』と同じく土井と坂元裕二のタッグの映画『片思い世界』で、今度は主演である。広瀬すずと杉咲花と清原のトリプル主演による、わけあって12年もの長きにわたって共同生活をしている3人の女性の物語だ。
※ここから先、作品のネタバレを含むため、未見の方はご注意ください
物語がはじまってすぐ、清原演じるさくらは夜の街を軽やかに歩いている。この姿が印象的だ。さくらは凛としてまっすぐ前進していく。すれ違う人たちを気にかけず、ぶつかりそうでもずんずん突き進む姿に、よっぽど我が道を行く人なのかなあと思うと、それには大きな意味があった。公式でももうネタバレしているのでいいかと思うが、さくらと美咲(広瀬すず)と優花(杉咲花)は現実とは別のレイヤーに生きている存在なのだ。この世の人たちからは彼女たちの姿は見えず声も聞こえない。触れ合うことも言葉を交わすことも。
その昔、彼女たちも現実世界の住人であった。それがわけあってこの世界から分離してしまった。この世界とそこに生きる人たちにひっそりと寄り添うように3人は共生している。
あるとき、現実世界に戻る方法があるかもしれないという情報が彼女たちにもたらされる。大切な人に思いを届ければ、この世界に戻れると、3人がいつも聞いていたラジオの気象予報士(声:松田龍平)が語りかけてきたのだ。さくらは「この人、気象予報士じゃなかったから」(オリジナルシナリオ集より)と言う。清原果耶の口から「気象予報士」というワードを聞くとは感慨深い。なぜなら、清原が朝ドラヒロインをやった『おかえりモネ』(2021年度前期)で彼女は気象予報士の役を演じていたからだ。これは坂元裕二の遊び心であろうか。

