閑話休題。ニセ・気象予報士の言葉を信じて、3人はそれぞれの会いたい人に会いに行く。美咲はほのかな恋心を抱く高杉典真(横浜流星)に。優花は母親(西田尚美)に。そしてさくらの会いたい人は――誰かと思ったら、最もハードな相手だった。言ってみれば「悪」という概念のようなもの。この世界とさくらたちを切り離してしまった張本人である。
『片思い世界』で清原果耶は、主演3人のなかで最年少ながら、最も過酷な相手と向き合う試練を託されたのだ。そう思うと、映画の冒頭近く、凛として夜の通りを歩いているさくらの姿に、孤高のサムライのような風情があったようにも見えてくる。
自分たちを世界から切り離した人物のことを調べあげ、会いにいくさくら。そこからこの物語はガラリと色を変える。ファンタジーだけで片付かない、死を受け入れきれない人間たちの少しハードボイルドめいた色味を帯びていくのだ。
いつも“重い使命”を帯びている人
『片思い世界』に限ったことでなく、清原果耶が出演作品で抱えている使命はいつだってずしりと重い。『花束』ではファミレスで単に好きなカルチャーのおしゃべりをしているだけに見えて、麦と絹に強烈な衝撃を与える役割を担っていた。
広瀬と共演した朝ドラこと連続テレビ小説『なつぞら』(2019年)も印象深い。広瀬が演じるヒロインの生き別れの妹役を演じていた。この妹、戦後、姉と別れ、置屋に引き取られ、料理屋に嫁ぐも、夫が愛人を作って離婚し、女手ひとつで料理屋をきりもりしながら娘を育てることになる。この役を演じた時、清原は17歳である。こんな艱難辛苦を、眉間の皺を絶妙な深さで寄せながら演じきり、視聴者を圧倒したのである。
極めつけは、『護られなかった者たちへ』(2021年)である。社会正義が強いあまり社会的弱者をないがしろにする者たちに対して猛烈な復讐心を燃やす役はおそろしくも哀しい。善悪で簡単に分けることのできない難役の演技によって清原は第45回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞した。
ドラマ『俺の話は長い』(日本テレビ系)や『青春18×2 君へと続く道』(2024年)で物怖じしない女の子役もさらりと演じる一方で、恋愛とか家族愛とかドメスティックなものを超越した領域を全身に引き受ける、じつにヒロイックな俳優、それが清原果耶である。なにしろ読売演劇大賞杉村春子賞を受賞した役は、フランスを救った英雄ジャンヌ・ダルクだ。国の救世主でありながら、異端者として悲劇の最期を遂げる人物の、神を信じて生き抜いた姿は全身全霊という言葉がふさわしかった。発声も堂々と明晰で、技術力も抜群だった。
こんなふうに、重い使命を帯びた役をたくさん演じている清原だが、デビューのきっかけはPerfumeだった。彼女たちが好きで、所属する事務所のオーディションを受ければ会えるかもしれないというなんとも微笑ましい動機であった。
12歳の時、「アミューズオーディションフェス2014」でグランプリを獲得し、2015年、朝ドラ『あさが来た』で俳優デビュー。ヒロインあさ(波瑠)に付き従う女中役で、あさの夫(玉木宏)にほのかな恋心を抱き、「お妾さんでいいよって おそばにいてられたら」(82回)と彼の袖をぎゅっと握って告白する姿が鮮烈で、倫理観を超えた純愛を感じさせて全国区に注目された。それから、CM出演やモデルなど順調にキャリアを積んで、大河ファンタジー『精霊の守り人』では綾瀬はるか演じるヒロインの少女期を演じた。主演ドラマ『透明なゆりかご』では看護師見習いとして産婦人科で生と死を見つめる姿を真摯に演じて、演技力を着々と上げていった。
朝ドラ主演も果たし、大河主演も時間の問題なのではないかという気さえ筆者はしている。映画出演も多く、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞した『碁盤斬り』(2024年)で演じた浪人(草彅剛)の娘役(名前はお絹)がこれまた毅然としていた。父の借金の肩代わりに遊郭に売られそうになっても最後まで堂々としている姿に、古き良き誇り高き日本人の理想を見たような気がして、時代劇をぜひやってほしいと思ったのだ。


