他に研究会で指したのは、山本博志四段や高田明浩四段という若手棋士もいる。関西所属の高田四段とは、東京遠征の際に研究会を行ったという。
「高田四段は試験第5局の相手でもありますが、それは考えずに指していただいていました。実際に第5局があることになっていたら、どうするか考えたかもしれません」
ついに奨励会未経験者として初めて「棋士編入試験」に合格
試験では連勝から第3局で狩山幹生四段に敗れた。第1局~第3局はプレッシャーは同じくらい。横山友紀四段と対戦した第4局はプレッシャーが大きくなったという。
「第5局までもつれてしまったら落ちると思ってやっていました。不安な気持ちで勉強を続ける中、1カ月に1度しか試験対局がないからすごく長い。長引くと不安も強くなって第5局まで安定した気持ちで勉強を続ける自信がありませんでした。なんとか第4局で決めたいと思っていました」
試験対局のペースは1カ月に1度。これは棋士編入試験の制度で決まっている。仕事を続けながら試験を受けたい人のことも考えられた制度だろう。小山さんも制度に不満があるわけではない。実際に体験してみたら、想像以上に長く感じる戦いだった。
第4局では小山さんは早い時点で優勢となる。
「いつも通りに指せてないと感じる部分はありました。優勢から踏み込みを欠いてしまって」
そして形勢は互角に近いところまで戻った。そこから立て直し、再び優勢を築くことに成功。横山四段の粘りを振り切った。2月13日、小山怜央は人生をかけた勝負に勝った。
大注目され、小山さんの試験と同じ相手で行われ、結果的には3連敗で不合格となった里見香奈女流五冠の編入試験は、3局とも実力派棋士の解説付きでABEMA将棋チャンネルにて放送された。一方、小山さんの試験は将棋連盟ライブの棋譜中継のみで、映像配信はなかった。
これについて聞いてみると、「私としては映像配信はないほうが良かったです。断ったわけではないです。希望を聞かれるようなことはなく、ただなかったというか」。
編入試験資格獲得のあとも、小山さんは公式戦で勝ち星を増やし、朝日杯、竜王戦合わせて4勝2敗だ。
「あと6勝すればもう一度編入試験資格を獲得できるとチラリとでも思ったか」と聞いてみると、
「また時間がかかりますし、再び挑戦するのは現実的ではありません。今回で合格したいと思っていました」
と小山さんは答えた。
次回の朝日杯出場権獲得につながる朝日アマチュア将棋名人戦(全国ベスト8で出場権を獲得できる)の首都圏ブロック大会には、試験第1局の1週前の11月20日に出場し、勝ちあがって3月の全国大会の代表を勝ち取った。しかし、次の「アマとしてプロ公式戦に出るチャンスを争う大会」である1月の「加古川青流戦アマチュア選抜大会」にはエントリーしなかった。試験が始まってそちらに集中したい気持ちも強くなっていた。
「大会が兵庫県加古川市で行われるので、移動と合わせて丸2日を早指しの大会で使ってしまうのは試験の勉強にマイナスと判断しました。合格して棋士になれば、加古川青流戦には出られるとも思って」