アマ将棋のトップとして出場したプロの公式戦で好成績を挙げたことにより棋士への編入試験資格を獲得、昨年11月から四段の棋士5人と1人ずつ対局していくという棋士編入試験を受けていた小山怜央さん(29)が、3勝1敗の成績で合格を決めた。奨励会未経験者の合格は現行制度では初めてだ。

 試験中に感じた不安や苦しさ、試験と並行して行われA級の広瀬章人八段と対戦した朝日杯、将棋に専念したここ2年の勉強の成果について聞いてみた。

小山怜央さん ©佐藤亘/文藝春秋

小山怜央(こやま・れお)

1993年7月2日岩手県釜石市生まれ。中3の奨励会試験、岩手県立大学ソフトウェア情報学部休学中の奨励会三段リーグ編入試験と2回不合格だった経験がある。アマチュアトップとして活躍していた2021年4月に勤めていた会社を退職し、棋士編入試験の資格獲得と合格して棋士になることを目指し将棋に専念するという決断をした。

アマ大会上位者に与えられるプロ公式戦出場15回。通算成績16勝15敗。2022年9月にいいところどりで10勝以上勝率6割5分以上という棋士編入試験受験資格を獲得し11月から受験。2023年2月に3勝1敗で合格し、4月から棋士四段としてフリークラスに編入する。

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「勝つか負けるかで人生がまったく変わってしまう」

「試験に落ちたらどうなるのだろう」「どうやって生活していけばいいのか」。1人暮らしのマンションでパソコンの前に座り、棋士編入試験の試験官を務める四段の棋士たちに勝つべくAI研究に励んでいた小山怜央さんはこんな不安にさいなまれていた。

 小山さんは編入試験の第1局11月28日の徳田拳士四段戦、第2局12月12日の岡部怜央四段戦に連勝。徳田四段は対局時に勝率1位で「強すぎる試験官」と言われていた。岡部四段も徳田四段とともに王位リーグ入り(現役170人ほどの棋士のうち12人しか入れない)を決めた実力者。あと1勝しなければ合格できないとはいえ、「もう合格の力がある」というネットの声は多かった。

 また、渡辺明名人をはじめとする棋士も、小山さんの棋譜中継を見て「若手精鋭に最新形で勝つのは強い」とツイートするなど、実力を評価する声が複数あった。

 小山さんは、「ツイッターをやっているので棋士の声もファンの声も目に入った」と語る。

「棋士の先生方に評価していただいたのはありがたく思いましたけれど、もう変な将棋を指すわけにはいかないという気持ちになりました。連勝で楽勝だなんて思うわけがありません。将棋は1敗で流れが変わってしまう。将棋を本格的にしていた人ならそれが分かると思います。気を引き締めていかないとと思っていました。そして試験の第3局が近づいてきたあたりでは、落ちた時の不安が大きくなり辛くなってきました」