もともと小山さんはアマチュア時代、「序盤はどうやって勉強したらいいのかよく分からないままになっていて、大会参加にネット対局という実戦以外は『詰将棋パラダイス』など難問も含め、速く解くことも意識しながらひたすら詰将棋を解く」という勉強をしていた時期が長かった。アマ大会では、序盤で悪くなってしまうこともしばしば。それを詰将棋で鍛えた得意の終盤で逆転というのがよくあるパターンだった。
しかし、それではプロに勝つことはできない。
苦手だった序盤を強化することを主眼においての退職してからの2年間の勉強。ここ数年のプロの棋譜をつぶさに見て、どんどん変わっていくプロの最新形を追うことも欠かさなかった。合格後の記者会見では「AIのお陰で強くなった」という発言が取り上げられたけれど、AIは魔法の勉強法ではない。自分の弱点に向き合い、それを埋めるべく時間をかけてAI研究に向き合ってこその成果だろう。
朝日杯で広瀬章人八段と対戦して感じた「勉強の手ごたえ」
序盤強化の手ごたえを掴む機会が、編入試験の第1局と第2局の間にあった。
朝日アマ全国大会ベスト8の成績でプロ公式戦出場権を勝ち取り、参加した朝日杯の1次予選を4連勝して勝ち抜いた小山さんは2次予選に駒を進めていた。早指し棋戦のため、午前中に1局、勝った場合のみ午後にもう1局ある。
12月9日に行われた2次予選の午前の相手は、順位戦B1の千田翔太七段。小山さんはアマとして初の2次予選での勝利をあげると、午後はA級棋士で藤井聡太五冠との竜王戦七番勝負を戦って日も浅かった広瀬章人八段と対戦した。その対局には敗れたものの、
「アマとして公式戦に出させていただいてもB1やA級の先生と当たることは、まずありません。公式戦だから先生も本気で指して下さいます。すごく嬉しい貴重な経験でした。2局とも戦型は予想と違い事前の研究通りにはなりませんでしたけれど、ある程度戦えた。勉強の成果が出せましたし、試験への自信にもなりました」
と振り返る。
年末年始は実家がある釜石には帰らなかった。その時期は研究会の相手が見つからず、1人でAIでの研究に励んでいたけれど、何時間も続けていると疲れてくる。
「それで、ちょっと遊びに走ってしまって……」
ここで小山さんが言う「遊び」とは、「ゲームだと思ってやっている」という人気将棋アプリ「将棋クエスト」の2分切れ負け対局だ。通常の将棋ではあるものの、持ち時間は2分で使い切ったら勝ち寸前の局面であろうとも負け。ABEMAトーナメントよりはるかに時間が少なく、考える暇などない。小山さんは別の人気将棋アプリ「将棋ウォーズ」では3分切れ負けで八段。超早指しは得意なのだ。
大晦日、「将棋クエスト」2分切れ負けに熱くなってしまい、勝っても勝ってもたまに負けても、すぐに次の対戦ボタンをタップ。ついには若い奨励会員も多数混じっているであろうランキングで1位になった。
「それは嬉しかったのですが、試験の勉強に集中しなくてはいけないのに、こんなことやっている場合ではないという気持ちにもなりました」
長時間勉強を続けるのはストレスもたまる。ゲームの他、好きな甘いものを食べたりして気分転換を図っていたものの、「試験期間全体を振り返って、あまりうまくストレス解消できなかったように思います。もう限界というところまではいかなかったのですが」。
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