2022年12月23日、里見香奈女流王座-加藤桃子女流三段の第12期リコー杯女流王座戦五番勝負最終局は、凄まじい戦いだった。
里見が駒損して不利で迎えた終盤戦、加藤が4筋中央に金2枚の柱を作って制空権を握れば、里見も負けじと自陣に桂を連打し攻め駒を追い出す。タテに金桂が2枚ずつ並ぶ見たことのない形に、立ち会いの神谷広志八段が「目がチカチカするな」とつぶやくと、新聞解説の菅井竜也八段は「いいじゃないですか」と笑みを浮かべたそうだ。やがて里見が打った守りの桂の1枚が跳躍して敵陣へ牙を剥き、ついに逆転。
だが両者1分将棋のなか形勢はその後も揺れ動く。互いに気力を振り絞って戦い、いよいよ大詰め、里見は加藤の玉頭に金を捨てた。そしてもう一枚の桂が跳ね出して王手。この桂がさらに敵陣に成り込み、加藤玉を仕留めた。総手数199手! 2022年のタイトル戦を締めくくるにふさわしい名局だった。
かくして里見香奈の2022年が終わった。
里見は、女流棋戦だけで年間60局も戦った(41勝19敗)。タイトル戦の成績を1月からの時系列で振り返ってみよう。
・女流名人 伊藤沙恵1-3 失冠 ●
・マイナビ 西山朋佳2-3 奪取ならず ●
・女流王位 西山朋佳3-1 防衛(4連覇)○
・清麗 加藤桃子3-0 奪取 ○
・白玲 西山朋佳4-3 奪取 ○
・女流王将 西山朋佳1-2 失冠 ●
・倉敷藤花 西山朋佳2-0 防衛(8連覇)○
・女流王座 加藤桃子3-2 防衛 ○
2つの偉業を達成し、プロ編入試験受験を表明
女流名人と女流王将を失ったが、清麗と白玲を奪取し、五冠を保持した。羽生善治九段が全冠制覇したときのタイトル数は7だったので、女流八大タイトルすべてに出場した里見は、数で言うなら羽生を上回った。
里見はプロ棋士の公式戦でも19局も戦い、第30期銀河戦本戦の本田奎五段戦や、第94期棋聖戦1次予選での出口若武六段戦など、若手実力者との対局でも勝ってきた。そして第48期棋王戦予選トーナメント第8グループでは、澤田真吾七段ら5人の棋士に連勝し、5月には古森悠太五段との予選決勝で勝ち、女性初の「タイトル棋戦本戦出場」を達成。同時に「公式戦で直近10勝以上、勝率6割5分以上」というプロ編入試験受験資格を満たした。
2つの偉業を成し遂げた里見は、しばらく編入試験受験を留保していたが、6月28日に受験を表明した。プロ編入試験は、棋士番号の若い四段5人と戦い、5局中3勝すれば合格となる。持ち時間は4時間、1局目だけ振り駒を行い、後は先後が入れ替わる。女性初のプロ棋士挑戦とあって社会的な注目度も高く、対局試験はすべてABEMAで中継されることとなった。