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〈指の震えが止まらず、駒が歪む〉

 狩山には、対局前に少しだけ話を聞くことができた。

「里見さんとは竜王戦で対戦もしていますので、特別プレッシャーはありません。(里見2連敗について)ここまでのことは考えず、自分らしい良い将棋を指したいと思います」

 あのとき、そう瀬川晶司アマ(現六段)の編入試験のときとはまったく違う。2005年に、瀬川のプロ編入試験で試験官となった高野秀行六段は、そのときのことをこう綴っている。

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〈駒が升目に入らない。

「王」「金」「銀」まできても指の震えが止まらず、駒が歪んでしまう。余程左手で右手を支えようと思ったが、多くの報道陣がいる特別対局室で、それは出来ない。そこへ汗が一気に噴き出してきた。盤の上に落とすわけにはいかない。タオルハンカチで汗を拭い、震える指で駒を並べる。ようやくの思いで、余り駒を駒箱へと収める。「始まる前から、何をやっているんだ」そう思ったら、ほんの少しだけ肩の力が抜けた〉(将棋連盟コラムより)

 高野がプレッシャーに押しつぶされそうになっていた状況と違い、今回試験官となった3人は、注目されることも、里見の実力も承知で「良い将棋を指したい」と対局に臨むことができた。

瀬川に「あのとき」の話を聞くと…

 一方の里見は、自分の将棋が指せていない。一番の要因はハードスケジュールにあることは間違いないが、タイミング悪く、調子が落ちていた時期だった。里見の駒は、前に進んでいかなかった。

 瀬川に「あのとき」の話をうかがった。

「私は機会を与えてくれるだけでありがたいという感じでプレッシャーはありませんでした。里見さんは超ハードスケジュールでしたし、女性代表と見られていたので大変でしたよね」

 また再度、岡部にも小山怜央アマとのプロ編入試験で対戦して負けた対局についての感想をうかがった。

「私は小山戦も里見戦と同様普段どおり指せました。小山さんは堂々としていてプレッシャーを感じているようには見えませんでした」と語り、小山さんの実力を認めた。岡部は小山に負けた後、王位戦で佐藤康光九段を破って初参加での王位リーグ入りを果たしている。

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