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 2021年7月、中止になったアマ竜王戦に代わり、これまでの成績優秀アマ16人を集めて行われた「上位4名が竜王戦6組に出られる特別大会」で準優勝。5度目の出場となった竜王戦で白星を1つ増やした。

 小山さんの編入試験資格獲得の勝ち星10のうち、竜王戦での勝ち星は7。持ち時間が5時間と長く、アマには難しいと思われるこの棋戦で、ここまで勝利したのは快挙と言えるだろう。

「竜王戦には5回出させていただきました。不慣れな頃は早く指して失敗していましたが、慣れるにつれて指したい気持ちを抑えて考えることができるようになったと思います。休憩前に慌てて指さないで、考慮時間を休憩に入れるといった技も覚えました」

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 朝日アマは再開され、2021年9月の神奈川県予選、11月には同首都圏ブロック予選を勝ち抜き、2022年3月の朝日アマ全国大会でベスト8に入って7月からの朝日杯の出場権を獲得。小山さんは、少なくなったプロ棋戦出場のチャンスを実力でものにしていった。

 そして、朝日杯1回戦で新人の岡部怜央四段、2回戦ではB級2組所属の戸辺誠七段に勝ち、ついに編入試験資格にリーチをかけた。

 小山さんは「朝日杯で絶対に残り3勝を挙げなくてはいけないとは思っていませんでした。次期の竜王戦もあったので」と言う。朝日杯1回戦の1カ月前、3年ぶりに開催されたアマ竜王戦全国大会で優勝して、6度目になる竜王戦6組の出場権を勝ち取っていたからだ。この余裕もいい方向に働いた。

運命の朝日杯、対局相手は同じ東北出身の中川大輔八段

 良い環境を求める欲がないと語る小山さんは、自分から研究会を立ち上げるようなこともしないという。将棋に対する真摯な姿勢と人柄のせいか声はかかる。研究会の誘いが増え、いくつか参加するようになり、現役奨励会員と指す機会も増えた。

 しばらく無職だった小山さんに「将棋講師をやらないか」と声をかけたのは、元奨励会三段で将棋教室を経営する甲斐日向さん。珍しく1回戦で負けた大会で他の人の将棋を見ていたら、早めに負けていた甲斐さんと話すことになり、誘われたそうだ。

 2022年9月13日。

「中川先生、気合入っているな」。朝日杯1次予選3回戦に臨んだ小山さんは、盤の向こうに座る中川大輔八段の顔をちらりと見て思った。相手の気合を感じたのは中川八段も同じ。ともに東北出身の2人は、中川八段が大会やイベントで東北を訪ねた時に数回会ったことがある。

「小山君のことは高校生の時から知っています。寡黙で多くを見せないけれど中には熱いものを持っている東北人らしい青年。でも、この対局の日は熱いものを前面に出して挑んできました。私もプロとして負けるわけにはいかなかったけれど、完敗でしたね。高校生の頃から強かったけれど、比較にならないくらい強くなっていた。大人になってからも努力して努力して、這い上がってきたのだと感じました」(中川八段)