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家が津波で流され、避難所暮らしになっても「今は将棋どころではないと思ったことはありません」

家が津波で流され、避難所暮らしになっても「今は将棋どころではないと思ったことはありません」

小山怜央さんインタビュー #2

2022/11/13
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「行方先生は青森のご出身で、青森の大会で感想戦に入ってもらってアドバイスいただいたり、お話ししたことがありました。失礼かなと思いつつも平手で指導をお願いしたら、先生は普段指さないような中飛車を指してきました。緩めていただいたのだと思いますが、自分でもうまく指せて勝つことができました」

 行方九段は「小山君に負けて悔しい、またリベンジしたい」とユーモアたっぷりに挨拶をして帰っていった。

 別の被災地訪問の機会には、谷川浩司九段が釜石へ。小山さんはまた平手で指導対局をお願いした。

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「失礼を承知でお願いしたのですが『ん、平手?』というような表情をなさって、やっぱり失礼だったんだと思いました。それでも平手で指して下さり、谷川先生も普段指さないような中飛車を指してきて驚きました。千日手になり時間の関係で指し直しはできませんでした」

復興支援のイベントは「とにかくわんこそばの印象が強烈で……(笑)」

 11月の将棋の日には岩手の復興支援として盛岡市でイベントが行われることになり、小山さんは高校生代表として岩手高校のエースと2人で抜擢。小山さん、中村真梨花女流三段、釜石支部の支部長、佐藤康光九段の4人、岩手高校の小野内さん、上田初美女流四段、別の支部の支部長、行方九段の4人でチームを組み、リレー将棋をするというものだった。

高3の11月に行われた支部名人戦の岩手県大会で。小山さんは優勝して岩手県代表となり東日本大会では3位に入った(写真提供・小山怜央さん)

「先後はわんこそばの早食いリレー競争で決めるというすごい企画で、私と小野内さんがトップバッター。わんこそばの達人は噛まずに飲み込むのですが、私にはそんなことはできません。食べるのが遅くて、ノルマの20杯がなかなか終わらない。横を見たら小野内さんも大苦戦していて、グダグダな勝負になってしまいました」

 客席にはたくさんの人がいる上にNHKの中継カメラも。ただでさえ緊張するステージ上で「わんこそば競争」と言われても困るだろう。将棋については覚えていて、それ以外のことは忘れていることも多い小山さんだが、この時だけは違った。

「残りのメンバーは私と違って早く食べていたような気がするのですが、どっちが先手をとったのか覚えていません。リレー将棋は勝ったような気がするのですが、それも覚えていません。とにかくわんこそばの印象が強烈で……(笑)」

 その模様はNHKで全国放送され、必死で食べるアンカーの佐藤康光九段の後ろにいる学生服に紙エプロンをつけた小山さんの映像が残っている。