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「キメラ=アント編」では「軍儀」の盤上の動きに要注目

 さらに「キメラ=アント編」(18~30巻)では、「軍儀」という、将棋に似た本作オリジナルの盤上遊戯が登場。キメラ=アントの王メルエムは、東ゴルトー共和国の「軍儀」チャンピオン・コムギと対局する。

 ここで注目したいのは、メルエムとコムギの対局中の盤上での動きが、ハンターたちのキメラ=アント討伐作戦と合致している点だ。たとえば、メルエムは盤上で「師(スイ)」(将棋の「王」に相当)を孤立させる「孤孤狸固(ココリコ)」の戦術を用いるのだが、ハンターたちはメルエムを護衛軍から引き離して孤立化させ、ネテロ(ハンター協会の会長)と一対一で戦わせる策を取る。あるいは、メルエムは「一手目で右翼に弓を据え 槍三本の速攻を決める腹だろうが」とコムギの手筋を予測するところは、ゼノの「ドラゴンダイブ(龍の雨)」による上空からの奇襲作戦と、ハンターチームが三手に別れて宮殿に侵入する作戦と対応する。

キメラ=アントの王・メルエム『HUNTER×HUNTER』24巻(冨樫義博 著、集英社)

 このように盤上の手筋と戦闘シーンを照応させることで、「キメラ=アント編」は多層的なストーリーテリングを実現している。

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 では、こういった「ゲーム的要素」は、マンガに何をもたらすのか。

 バトルの戦略性に幅を持たせるという点はすでに見たとおりだが、それにも増して、「ルール(および勝利条件)を明示する」という役割も担っている。

少年マンガにおける「親殺し」の系譜

 そもそも少年マンガ(少年誌における長期連載型ストーリーマンガ)とは、“少年”(=未成年者)の冒険譚である。少年は旅先で試練を乗り越え日常を回復する、という「行きて帰りし物語」の構造を取っており、それは所属する共同体の構成員(=大人)として迎え入れられるための通過儀礼(イニシエーション)にほかならない。

 そして、少年が直面する試練とは、親の影響力を離れることである。

『スター・ウォーズ』のルーク・スカイウォーカーにとってのダースベイダーのように、少年マンガでは文学的な意味における「親殺し」が強く意識される。『NARUTO-ナルト-』のうずまきナルトの父親は四代目の火影であり、『BLEACH』の黒崎一護の父親は元隊長格の死神、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』のダイの父親は伝説の「竜の騎士」、『ONEPIECE』のルフィの父親は「世界最悪の犯罪者」、『幽☆遊☆白書』の浦飯幽助の“魔族としての”父親は魔界最強クラスの妖怪・雷禅、『HUNTER×HUNTER』のゴンの父親は最強クラスのハンター・ジン……と、ともすれば血統主義と捉えられかねないほど、父親の姿は偉大に描かれ、それはとりもなおさず乗り越えるべき試練のハードルを高くするためである。