ゴンのようなハンターとして駆け出しの“少年”が、ネテロやヒソカ、ゲンスルーといった熟練の大人と戦っても、競技者の安全を保障するルールがあれば、殺害される危険性からは遠ざけられるのだ。
こうしたルールの枷がすべて取り外されたのが「キメラ=アント編」だ。人間を捕食対象とするキメラ=アントとの戦いは、ルール無用の生存競争である。この戦いの最中、“ルール”の象徴とも言える「ネテロの左手と右足」が失われるのは、極めて象徴的な出来事であった。また、“少年”のままではキメラ=アントに対抗できなかったゴンが、どのような道を選択したのか、その結末にも納得がいく。
クラピカの行く末を憂慮するわけ
現在進行形の「王位継承編」(32巻~)は、暗黒大陸をめざす巨大船ブラックホエール号の船内で、カキン帝国の14人の王子によって王位継承権が争われている。このサバイバルマッチのルールは「最後のひとりになるまで行われる」。ただし、王族を殺害した者は家族全員が死罪となり、王族同士でも有罪となる。それと並行し、ブラックホエール号の一般渡航者エリアでは、幻影旅団によるヒソカ狩りが進行中。いずれも当事者を「殺害の危険性」から遠ざけるようなルールではなく、むしろ積極的に暗殺を推奨するようなルール設定といえる。
これに先立つ「会長選挙編」(30~32巻)を通じて、“少年”のゴンはメインのストーリーラインから退場させられ、一方で「十二支ん」(ハンター協会の最高幹部)の一員として共同体を運営する構成員に迎え入れられたクラピカが「王位継承編」の主役的な立場を担っている。
事程左様に、『HUNTER×HUNTER』ではルールに保護された“少年”が主人公たりえる季節はとうに過ぎており、であればこそ作品全体に誰が死んでもおかしくない恐怖がつきまとい、読者はクラピカの行く末を憂慮するのだ。
『HUNTER×HUNTER』では、現行シリーズで提示されているルールを確認すれば、各キャラクターの行動原理が見えてくる。連載再開と新刊発売を機に既刊を再読する方も多いと思うが、改めてルール設定を意識して読み返してみるといいだろう。