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「米国社会について真実を言っていたのはトランプのほうだった」エマニュエル・トッド見抜いた「トランプ支持者の合理性」
『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』 #2
白人の主な死亡原因は…
主な死亡原因は、グラフ14─2が示すように、明らかに社会心理的なものである。
すなわち、麻薬中毒、アルコール中毒、自殺。したがって、自由貿易と規制緩和の効用についての議論は、もはや「これにて終了!」である。成人死亡率のこの上昇が示唆するものこそが、2016年にドナルド・トランプがまず共和党の大統領候補者に指名され、次に大統領に選出されるという事態を可能にしたのだと、私には思われた。奇しくもかつて私が、1970年~1974年のソ連の乳幼児死亡率の上昇に注目した結果、早くも1976年の時点で、ソ連システムの崩壊を予想することができたのと同じように。
その後、2016年11月に発表されたジャスティン・ピアース〔経済学者、貿易問題等を研究〕とピーター・ショット〔米国の国際経済学者、貿易問題等を研究〕のジャーナル論文が、米国各地の郡のレベルで、中国との貿易自由化と死亡率上昇の間に確乎とした統計学的関係があることを明らかにした。
実際、産業面で中国製品の競争力に直接的に晒された郡では、死亡率が独特の形跡を残して上昇したのだった。彼らの分析結果によれば、最も意味深い死因は麻薬中毒よりも、むしろ自殺一般であるようだ。なお、J・ピアースとP・ショットの論文は、倫理的含意によっても読者を惹きつける。自由貿易の効用を公にアピールする共同嘆願書などに署名する経済学者たちが犯罪者に相当することを暗示し、その責任について、過去にさまざまな市民グループがたばこメーカーや製薬会社を相手取って訴訟を起こしたのと同じような手法での告訴の対象になり得ると見做しているのである。
A・ケースとA・ディートンの論文で分析されている死亡数増加の分布は、教育による階層化を反映している。その増加は、中等教育またはそれ以下しか享受していない白人の米国人に集中しているのだ(10万人当たり134.4人増)。高等教育課程の途中まで就学した者の死亡率は横ばいであり(3.3人減)、高等教育を修了した「大卒」カテゴリーの死亡率は少し下降している(57.0人減)。
しかし、だからといって高等教育享受者の幸福度を誇張するのは控えよう。やはりここでは──私がしばしば述べている方針と逆のように見えるかもしれないが──経済学的データに立ち帰るべきだ。所得推移の比較分析は、学歴による優位性が相対的なものでしかないことを示唆している。