「7月頃から急に注文が増え始めて、最近は1カ月に約1000台の中古車を船便でロシアに送っています。富山新港発、送り先はウラジオストク。人気なのはトヨタ、スバル、スズキ、マツダ……ロシアに持っていけば日本車なら何でも売れますね。売上は過去最高よ」

 

 満面の笑みでこう語るのは、富山県射水市にある中古車販売会社に勤務するロシア人のエレーナさん。17年前に設立されたという彼女の会社の従業員は10人全員がロシア人。日本で中古車を仕入れてロシアに輸出しているというが、実はこの業界、にわかに“バブル”の様相を呈している。

 今、ロシア向けの中古車輸出数が激増している。

 背景にあるのは、今年3月から日本政府が発出したロシアに対する経済制裁「『ぜいたく品』の輸出禁止措置」だ。この影響で、自動車では、ディーゼルエンジンやトラクターに加えて、1台600万円超の乗用車が高級車とみなされ禁輸対象とされた。6月にはダンプカーやブルドーザー、貨物自動車も輸出禁止に。そのため、ロシアに輸出できる自動車は、単価の安い“中古の乗用車”のみとなり、需要が急増しているのだ。

ロシアへの中古車輸出、取引金額は303億円に

 財務省の貿易統計によると、今年3月時点で日本からロシアへ輸出された中古車は全国で約1万台。ところが、政府の輸出禁止措置を挟んで8月になると約2万台に増加し、取引金額は101億円から303億円へと実に3倍に膨れ上がっている。

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 中でも輸出台数が多いのが富山県だ。富山港、富山新港、伏木港の3つの港から構成される「伏木富山港」には現在、月14便のRORO船(車が自走で乗り込める運搬船)が定期発着しており、ロシアへ中古車を輸出している。8月には伏木富山港だけで1万3000台が輸出され、193億円という過去最高額を叩き出したのである。

 富山で今、何が起きているのか。

クレーンで甲板へ。1台あたり2分弱で吊り上げる

「ランドクルーザー」など、大量の日本車が輸出される港

 10月29日午前9時半。富山新港ではオレンジ色の車両運搬船に次々と中古車が積み込まれていた。この船は、10月28日と29日の2日間にわたって港に停泊して貨物を積み込んだ後、ロシア沿海州へと向かう予定だという。埠頭の入り口には「盗難防止・交通安全特別地域」と書かれた看板が立てられており、日本語と英語に加えてロシア語で表記されている。

 船体の後方にあるスロープを使って自動車を収容していたが、船内が満杯になったのだろうか、クレーンで車体を吊り上げ甲板に載せていく。船上ではロシア人と思しき外国人が指示を出し、隙間が無くなるまで詰め込んでいた。