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 男性Aは、スポーツイベントが終わると、男性Xから帰り道に、「僕が学んでいる人のビジネスセミナーがある」と誘われます。ただし、参加するには条件があり、「毎日、日記をつけて、私に送ってほしい」と言われ、彼はうなずきます。

 同時に、『金持ち父さん 貧乏父さん』(ロバート・キヨサキ著、筑摩書房)を読み、感想を毎日送るように言ってきます。

「いまにして思えば、報連相をさせることで、私の個人情報を把握し、勧誘を有利に進めようとしていたのでしょうね」

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『金持ち父さん 貧乏父さん』(画像:筑摩書房サイトより)

 当時の彼は、これがセミナーに参加するための条件だと思っているので、数週間行います。みずからの思想に近い本を読ませるなどして、みずからのグループの考えに染めさせてきたわけですが、結局、彼は、「私がこのグループを抜けるまでの4年間、この報連相は続きました」と話します。

「判断の自由」を奪われる恐ろしさ

 あるとき、男性Xから「会って話そう」と言われ、「自分たちが参加するビジネスの勉強コミュニティーに入らないか?」と誘われます。セミナーへの参加にはコミュニティーへの「入会同意書」にサインしなければならないというのです。男性Aは「経営ビジネスのことが学べるなら」という軽い気持ちでサインします。

 後日、彼は都内で行われたビジネスセミナーに参加します。100人ほどが参加していました。壇上では代の若い男が話をします。

「経営者になるためのメソッド」と題して、「会社で働くラットレースから抜け出し、ビジネスオーナーになる。これには行動力が必要です」との内容が話されます。その後、チームごとに分かれたディスカッションに参加。現在何をして働いているのかや、自分自身の夢や目標などを語り合います。

 最後に、「自分の周囲の人たちを入会させ、集客していく」との話が出て、ここで初めて、グループがネットワークビジネス(マルチ商法)であることを知らされます。当時の彼は、「経営することは難しいと思っていましたが、セミナーを聞いているうちに、特別な能力は必要なく、ここでの活動を続ければ、経営者としての成功がつかみとれるかもしれない」との希望を抱いたと言います。

 もうすでに彼の心はグループの思想にどっぷり浸かっていたのです。セミナーの帰り道、男性Xからあるネットワークビジネスを紹介されます。入会同意書にサインさせられたうえに、グループの思想に染まっていることもあり、もはや拒否できない状況です。