インターネットが流通し、誰もがスマホを巧みに操る時代になっても、人々が「マルチ商法」や「ネットワークビジネス」の餌食になってしまうのはなぜか?
同問題に詳しいジャーナリストの多田文明氏の最新刊『信じる者は、ダマされる。 元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』より一部を抜粋。そこで明かされたのは、人々の判断の自由を奪い、法の網をかいくぐる彼らの狡猾さだった――。(全2回の2回目/前編を読む)
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グループに共感を示すと「報連相」を求められる
男性Aは、10人くらいの人たちとカードゲームやキャッシュフローゲームをしました。
「キャッシュフローゲームをさせながら、自分たちの思想に染めるのも、目的のひとつです」と彼は話します。
人生ゲームのように、サイコロを回してお金を貯めながら、円卓のコースをぐるぐる回ります。そして、一定の金額になれば、「会社で働くというラットレース」から抜け出し、経営者、投資家に上がれるというものでした。まさに、この「会社人間からビジネスオーナーになる」という考え方がこのグループの根本にあるもので、ゲームを通じて少しずつその思想に染めていこうとしていたのです。
彼はイベントの帰り道に、「次のボードゲームにも来てみませんか?」との誘いを女性から受けます。とくに悪い印象もなかったので、1週間後に彼は再びイベントに参加します。そして、またこのイベントの帰り際に、「別のイベントがあるので参加しませんか?」と誘われます。彼が参加したのはフットサルです。このなかには、イベントに参加した顔見知りもおり、すっかり心を許してしまいました。
通常のマルチ商法の勧誘では、イベントや説明会のあとに、すぐに個別に話す場を設けて勧誘するものですが、このグループは、すぐには本筋である勧誘行為をしません。何度も自分たちのグループに足を運ばせて良好な人間関係をつくり、一定の思想に染めるまで待ち続けるのです。
ここには、もうひとつの勧誘テクニックが使われています。それは、ひとつのイベントが終わったあとに、次の催しに誘う手です。イベントを終えると心が高揚していますので、次の誘いの話をすれば、相手は「そうですね」とうなずかざるをえません。これを延々と続けていき、本人の身と心をからめとっていきます。イベント後の帰り道での誘いには十分に注意してください。
心が思想に染まったところで、本来の目的である勧誘をスタート。そして、ターゲットにした人物が十分にグループの思想に染まったと判断すると、勧誘の牙をむき出しにしてきます。