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ガソリンスタンドに驚くような光景が

「でも、まだわからないじゃない。爆撃って決まったわけじゃないんでしょ 」

「まあ、そうだけど」

「何か倉庫で不注意で爆発があったのかもしれないし、あ、爆竹を誰かが鳴らしたのかもよ」

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「でも、たぶんそうなんじゃないかしら。ネットでは侵攻が始まったって言ってる」

 爆音が聞こえたという4時から3時間。お母さんはそれで目覚めてから眠れなくなって、スマートフォンで今の状況をずっと調べていたらしい。世の中はどうなっているのだろう。思わずダイニングの窓を開けたところ、驚くような光景が目の前に広がっていた。

 近くのガソリンスタンドに向かって、見たことのない長い長い車の列がすでにできていたのだ。みんな今朝の爆音に一気に恐怖が現実味を帯びて、避難に備えてガソリンを入れに来たのだ。ガソリンスタンドは坂の上にあるのだけど、そこから10キロはあるずっと坂下のうちのアパートにまで列は途切れなく続いていた。

ズラータさんが描いたロシアの侵攻開始直後のドニプロの様子(『ウクライナから来た少女 ズラータ、16歳の日記』より)

「パニックにならない。冷静でいよう」

 8時頃になると、通っている専門学校の先生から「今日は臨時休校になったから学校へは来 ないように」と連絡があった。いよいよこれは戦争なのだということが疑いようもなくなってきた。いやいや、とにかく落ち着こう。今すぐ何かが私の頭の上に落ちてくるわけじゃないはず。8時半頃、お母さんと私はリョーリャを連れて外に散歩に出てみることにした。

 慌てたりパニックになったりする必要はないけれど、少し買い物をしておいたほうがいいかもしれないと、お母さんと2人でスーパーに寄ることにした。スーパーはまだガソリンスタンドほどの混み方はしていなかった。品薄になっているところもあったけれど、全部が全部というわけではなく、普通に必要なものは買えた。一方で、非常用にいろいろなものを買い貯めしている人もいて、その様子にまた人だかりの列ができて、さらに列が延びている状況だ。

「今、パニックになって並んでも、何も買えないでしょうから、また数日後に落ち着いてから来よう」と、このときもお母さんは冷静さを保っていた。そのとおりだと思った。いきなりスーパーの倉庫から全部が消えてしまうわけではないはずだもの。怖いのは、みんなが一斉にパニックになること。そのことが引き起こす事態のほうが怖い。気をつけなければ。