「ズラータ、あなたは日本に行くのよ!」

 2022年3月16日の朝、ウクライナのドニプロで暮らす当時16歳のズラータ・イヴァシコワさん(17)は、母親からそう告げられた。『ウクライナから来た少女 ズラータ、16歳の日記』(世界文化社)は、日本に憧れるウクライナの少女が、戦時下のウクライナから日本までの逃避行を描いた日記を元にした作品だ。

 ここでは、同書より一部を抜粋し、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった翌日の2022年2月25日(金)の出来事を紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)

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ズラータ・イヴァシコワさん ©杉山拓也/文藝春秋

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日本と少し違うウクライナの学校制度

 昨日は臨時休校になった学校だけれど、今日はあると連絡があった。いつものとおり、仕事に行くお母さんの車に同乗して、学校の前で降ろしてもらった。クラスのみんなは昨日のことをどう受け止めているのだろう。怖いと思っているのかな。

 昨日のことを誰か何か言っているかなと思いつつ教室に入ってみると、なぜか誰も騒ぐ人はいなかった。鞁音を立てるのも躊躇するほどシーンとしている。それも当然かもしれない。戦争という昨日まで空想の世界にあったものがいきなり目の前に現れたらそうなる。

 ウクライナの学校制度は日本とは少し違う。日本は小学校6年、中学校3年と分かれているけれども、ウクライナは5~6歳で学校に入学したら、そのまま高校3年生までみんなクラスも一緒。ただ中学校を終えたあとは、普通の高校に通う人と、専門学校に通う人とに分かれる。普通の高校のクラスはさらに数学と文学に分かれる。

 でも高校よりも専門学校のほうを選ぶ人が多いかな。というのは、専門学校に進めば、それだけ早く専門知識や技術を身につけられるし、高校の課程の授業も一緒に受けられる。高校は大学進学のときにとっても大きな難しい試験を受けなければいけないのだけれど、専門学校を卒業していたら、大学で同じ専門に進む分には、1年生を飛び越して2年生から入学できるからだ。

 だから私も専門学校を選んだ。小さい頃から大好きで得意な絵を専攻するために、美術系の専門学校に進んだのだ。1学年は30人。そのうち男子はたった2人だけ。高校の課程の授業を受けるときは30人同じ教室で、でもデッサンなどの美術のクラスは4つのグループに分かれて受けることになっていた。