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「いよいよロシアの侵攻が始まったの」朝4時に爆音、スーパーには長蛇の列が…ウクライナ人少女が明かす“戦時下のリアル”

『ウクライナから来た少女 ズラータ、16歳の日記』より #1

genre : ライフ, 社会, 国際

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「ズラータ、あなたは日本に行くのよ!」

 2022年3月16日の朝、ウクライナのドニプロで暮らす当時16歳のズラータ・イヴァシコワさん(17)は、母親からそう告げられた。『ウクライナから来た少女 ズラータ、16歳の日記』(世界文化社)は、日本に憧れるウクライナの少女が、戦時下のウクライナから日本までの逃避行を描いた日記を元にした作品だ。

 ここでは、同書より一部を抜粋し、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2022年2月24日(木)の出来事を紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)

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ズラータ・イヴァシコワさん ©杉山拓也/文藝春秋

◆◆◆

お母さんとドニプロで2人暮らし 

 私はズラータ・イヴァシコワ。2005年生まれの16歳。ウクライナ第4の工業都市・ドニプロという街に生まれて、この街で育った。今は市内の「146」番のアパートで、お母さんと、 9歳のマルチーズ、リョーリャと暮らしている。ウクライナの建物は、名前ではなく番号 がついていて、その番号で「ああ、あそこの建物ね」とみんながわかるようになっている。繊細な日本の建物とは違って、どっしりと重厚なものが多いのも特徴的だ。

 私が住んでいるアパートはドニプロの中心に近いところにあって、ソ連時代に建てられたとても大きなもの。このあたりは、ソ連時代には地図に決して載せてはいけない秘匿性の高い軍 事基地があった場所だ。だから軍事工場関係の労働者が多く住んでいたそうだ。うちはその11階。日本で言うところの2LDKとか3LDKにあたるのだと思うけど、広さはずっと広い。

 私の部屋も、お母さんの部屋も、日本の少し小さめの会議室ぐらいの大きさがある。そして窓からはドニプロ川の向こうまで景色が見晴らせて、私はとってもこの住まいを気に入っている。

 お父さんはいない。私が生まれてすぐの頃に家を出てしまったと聞いている。だからずっとお母さんと2人暮らしだけれど、市内にはおばあちゃんもいるし、お母さんの弟である叔父さんもいる。みんな仲がいいし、私のことを大切に可愛がってくれるので、全然寂しくはない。

 むしろみんなに愛されてすごく幸せだ。お母さんはずっと会計士として働いている。高校卒業後からずっと働いて、ようやく今の住まいを手に入れた頑張り屋さんだ。

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