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「もしも実際に爆撃が始まるようだったら、シェルターを見つけて、そこに食料や必要なものを運ぶように。そして長期的に避難できるところを今から探して、なるべくそこに行くようにしなさい」

 人は本当に驚くと言葉が出ないものなのかもしれない。先生にそう言われると、ますます現実のことなのだという重みが感じられて、クラスの空気は沈痛なものになった。「シェルター」「食料」「避難」。昨日までマンガのなかで出ていた単語が自分の生活の一部になるなんて何人が想像していただろう。30人それぞれが、それぞれの思いをめぐらしている。とりあえず、学校は2週間休みということになった。

ズラータさんが描いた学校の様子(『ウクライナから来た少女 ズラータ、16歳の日記』より)

この先、いつ会えるんだろう 口数が少ない帰り道

 私達10代の学生も、世の中の状態があまりいい方向に進んでいないという事を感じていなかったわけではない。クラスメイトの中には熱心にネットの情報をチェックし、見えない恐怖に備えようとする人もいた。だから「何か良くないことが起きるかも」という話はあった。

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 でもそれは、数年前に流行った「世界の終わり」のような大予言的なものにすぎないと思っていたのだ。もしや、明日提出する課題の〆切が少し延びてくれたらって思ったのがいけなかったのかな。まさか、提出することさえできなくなるなんて思いもしなかった。

 帰り道、全員がショックを受けてあまりしゃべれなかった。鯛先生の言うことは、いつも重い。それは、そこに目を背けたくなる真実が映し出されるからだ。そう思うと、今日の先生の言葉は10代の私たちが受け止めるにはあまりに重かった。みんな、自分たちがこの現実の前には無力なのだと痛いほど感じていた。

 クラスのなかで仲良くしていたナスチャとポリナともしばらく会えなくなってしまう。ボルドーのブーツを履いているおしゃれなナスチャのことは、帰りがけ、よくバス停まで送っていった。いろいろおしゃべりをしながら帰る道はとっても楽しかった。ポリナはスリムで大きな青い目が印象的なとってもきれいな人。

 いつも満点に近い優秀な成績を取っていて、2人で約束してネクタイを締めてリンクコーデした服で登校したこともいい思い出だ。地下鉄の遠い駅から通っていた彼女は、学校が休みに入るとあって、今日も大きなキャンバスを抱えて駅に向かっていた。誰もが口数少ないまま歩いていた。この先、いつ会えるんだろうということを口にはできなかった。