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「明日には全員死んでしまうかもしれない」16歳のウクライナ人少女が“ロシア侵攻”で突きつけられた重すぎる現実

『ウクライナから来た少女 ズラータ、16歳の日記』より #2

genre : ライフ, 社会, 国際

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戦争が始まる前は、平和で明るい将来を夢を抱いていた

 学校は4年制だけれど、高校の課程は2年で卒業となり、残りの2年は美術の授業だけになる。私も今年の6月で無事高校は卒業できる予定。そのあとはコロナもきっと収まり、美術の勉強に邁進できるだろう。この頃は、そんな漠然とした平和で明るい将来を夢見ていた。

 そしていつか日本に行って、日本語を自在に使えてプロの漫画家になれたらどんなにいいかしら。卒業したら働いてお金を貯めて、いつか必ず実現したい。そう思っていた。昨日までは。

 でも戦争が始まってしまった。これから私たちはどうなってしまうのだろう。確かなことは何1つわからない。

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「明日から戦争になります」学校は2週間休みに

 いろいろ思いをめぐらしていると、担任の先生が教室に入ってきてホームルームが始まった。この先生、「鯛先生」というニックネームがついている。魚の「鯛」に何となく似ているからだ。私よりも背が低い、60代ぐらいの男性で、灰色の短い髪の毛に灰青色の瞳の、服装にはあまりこだわらない人だ。とても深くて面白い考えをさせるような話をするのだけれど時々重すぎて、聞いていると頭が働かなくなるのが玉に瑕(きず)だ。

 自分が不自然と思うものはすべて否定する傾向があって、あるとき生徒の油絵を見て「これはいかんな」と言いながら、大きな筆を持ってその絵を自ら原形を留めないぐらいに描き変えてしまったときは、さすがに驚いた。直された生徒は泣き出してしまった。ただあとからよく見てみると、「ああ、それも意味のあることかもしれない」と納得できたりすることもあった。そういったインパクトで私たちを「鍛える」のだと先生はいつも言っていたが。

 その鯛先生が、その日は教壇に立つと、いきなりこんなことを言った。

「明日から戦争になります」

 続けて、戦争がもしも始まったらどうすべきかという説明をしてくれた。

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