最後は裁判官から。
裁判官「証拠によると、ご両親は仕事してないのかな?」
被告人「はい。散々迷惑掛けてきたので支えないと……」
裁判官「支えるようなことやってないよね」
被告人「はい……」
ここからは裁判官の深掘りが始まります。
裁判官「評論書いたりは?」
被告人「いや、本格的には……」
裁判官「文才無いの?」
被告人「人並みには……。やりたいですけど……」
裁判官「人生にどんなビジョン持ってましたか?」
被告人「趣味を活かして何かやりたかったんですけど」
裁判官「観劇?」
被告人「はい、自分にはこれしかないんで……」
裁判官「どうやって演劇を観るかしか考えてなかったですか?」
被告人「それだけじゃないですけど……でも劇中心の生活でした」
裁判官「捕まらなければ一生続けるつもりでしたか?」
被告人「いや、それは。今回がいいきっかけだと思いました」
裁判官がひと言「この話を知っていますか?」
すると裁判官は間を空けてから
裁判官「イソップ童話に『アリとキリギリス』って話があるんですけど知ってますか?」
事件についてではなく、イソップ童話についての質問です。この唐突なクイズが何か演劇的な演出にも思えてきます。この問いに対して
被告人「はい……その通りです」
『アリとキリギリス』を知ってるだけではなく、裁判官が言わんとしていることを汲み取ったのか先回りして「その通りです」と答えると
裁判官「どっち?」
被告人「アリとキリギリスです」
何故か一人二役の被告人。
裁判官「ん? いや、あの~キリギリスはどうなりますか?」
被告人「えーっ……あの~、アリがコツコツとですね……あの~」
と慌てる被告人。まさか法廷で『アリとキリギリス』のストーリーを訊かれると思ってなかったのか、いろんな芝居を観すぎて古典的なお話を忘れてしまったのか、単純に知らなかったのか。