1919年に起きたアムリットサル事件とよばれるこの大量虐殺は、死者約1200人、負傷者約3600人にも上る大惨事となりました(英国側の報告では死者379人、負傷者1200人)。政府は、無抵抗の人々を銃弾がなくなるまで撃った非人道的な虐殺事件を、戒厳令を敷いて秘密にしようとしました。しかし時はすでに遅く、事件を知ったインド人たちは猛反発しました。
ガーンディーは独立運動をより強め、アジアで初めてノーベル文学賞を受賞しナイト爵を授与された詩人タゴールは、「名誉が恥になった」と爵位を返上しました。
そしてその翌年。1920年が『RRR』の舞台になるのです。
このように、1920年というのはアムリットサル事件の直後、英国とインドとの間の緊張感が非常に高まった時期です。映画の序盤でも効果的に使われる、独立運動のシンボルとなった「ヴァンデー・マータラム」(母なるインド万歳)と書かれた三色旗も、激動の時代を象徴しています。
それを踏まえて映画を観ると、英国人とインド人の間の物理的な距離感や、お互いを警戒している様子が理解できるかもしれません。
インド・パキスタン分離独立…そして現在
では、史実のインドはその後どうなったのでしょうか。
インドの独立は大きな痛みを伴うもので、道筋は簡単ではありませんでした。
独立運動は激化し、多くの人々が投獄されましたが、人々は諦めませんでした。そして第二次世界大戦の後、インドを統治することが難しくなったと判断した英国は、ついにインドの独立を認めます。
しかし残念なことに、このときにはムスリムとヒンドゥー教徒の亀裂は修復できないほど深まっていました。英国人により引かれた国境線をもとにインドは分割され、東西パキスタンにはムスリムが、インドにはヒンドゥー教徒が住むことが決まりました。人々は短期間で、住み慣れた土地からの移動を余儀なくされます。
その結果、パキスタンに住むヒンドゥー教徒やシク教徒はインド側に、インドに住むムスリムはパキスタンに移動することになったため、国中が大混乱に陥りました。
1947年のインド・パキスタン分離独立では、人々の移動に伴い暴動が頻発し、100万人近くが亡くなり、1450万人が難民になったといわれています。
インド独立の傷痕は、現在のインドとパキスタンの関係からも明らかなように、今でも影を落としています。
インド独立から75年経った今年、インドにルーツを持つリシ・スナク氏が英国の首相になりました。ちょうどインドのお祭りディワーリーの時期だったこともあり、このニュースはインドではお祝いムードの中で好意的に受け止められました。
折しも『RRR』が日本で公開されたタイミングでそのニュースが入ってきたのは、個人的には非常に感慨深いです。
映画『RRR』がヒットしている納得の理由
では『RRR』はそういった重い歴史をテーマにした映画なのでしょうか。