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2022/11/24

 私の下には、過去に幸三と仕事をしていた海外在住の友人たちから励ましのメールが届いており、改めてその人望の厚さを実感させられた。

 幸三と面識のない人々からも、体調を気遣うメールや便りが多数届いており、嫌がらせをする人ばかりではない。

 私は帰りを待つ家族のために、幸三の受刑生活を見守っていくつもりだ。

写真はイメージです ©iStock.com

上級国民バッシングとはなんだったのか

 この事件は、高齢者ドライバーを象徴する事件となった。事件報道以降、運転免許証を自主返納する人は急増。事故が起きた2019年に免許を自主返納した人は前年から約18万人増え、過去最多の約60万人に上った。うち75歳以上は約6割を占めた。

 幸三の不逮捕に批判が集中したのは、当時の安倍政権下の数々の疑惑も影響している。

 幸三は2015年、安倍政権下で勲章を受章し、「桜を見る会」にも出席していた映像が残っていたことから、ネット上では政治家、特に安倍政権との関係を囁かれ、安倍政権批判の材料にもされていた。

 普段、加害者に同情的なコメントをするリベラルな人々の中にも、安倍政権批判の側面から上級国民バッシングを支持した人々もおり、孤立無援な状況に陥っていた。

 幸三と昵懇(じっこん)の仲の政治家は、私が話を聞く限り存在しない。現役の時ですら、政治家との付き合いに積極的ではなかった幸三をかばう政治家などいるはずがない。世間で騒がれた特権などないからこそ、一般の刑務所で過酷な受刑生活を送っているのだ。

 私は本件にかかわるにあたって、飯塚家に何らかの政治的特権が与えられていないか注視していたが、特権に関する追及は専らネット上の名もなき人々が不正確な情報を元に騒ぐだけで、この点を真正面から追及した報道はなく、社会的に検証されることはなかった。

「上級国民バッシング」はその後も、政治家や芸能人の特権剥奪を目的に、名もなき一部の市民にとってはかつて、手の届かないはずだった人々の社会的地位を奪う手段となっている。ある著名人の誹謗中傷を繰り返し書類送検された加害者のひとりは、上級国民バッシングを「ネット市民革命」と呼んで正当化していた。

 革命とは、権力に対して無力な市民が暴動を起こし構造変革を強いることであるが、上級国民バッシングによって日本の社会構造は変わったかといえばそうではない。本質的な問題は解決していないのである。