メディアの“犯罪報道”の影響力
加害者家族の被害者性が封印されてきた背景には犯罪報道の問題があり、メディアも国家による加害を助長してきたといえる。
加害者家族を支援するにあたって、何が原因で事件が起きているのか、徹底的な洗い直しが不可欠である。犯罪報道では、犯行動機について、「痴情のもつれ」や「金欲しさ」といった曖昧な結論のまま、事件を終わらせてきた。
犯罪報道のピークはたいてい逮捕直後であり、捜査段階で上がった情報によって、犯罪者の印象は決まり、裁判を待つまでもなく世間による裁きが下されるのである。安倍晋三元首相殺害事件がまさにそうである。事件発生時、影響力のあった首相を殺害し、日本の治安を大きく揺るがしたとして、山上徹也(当時40代)への死刑求刑もあり得るのではないかという報道もあった。
ところが、山上の伯父がメディアのインタビューに答え、母親が旧統一教会の信者であり、多額の献金をしていた事実を告白したことによって、各メディアの矛先が旧統一教会に向けられた。さらに、自民党との関係が次々と明らかになるにつれて、山上に対する世論は同情する方向に大きく傾いた。
彼自身ではどうしようもできなかった不遇な家庭環境が明らかとなり、起訴前から減刑を求める署名活動が始まった。また、山上のプリズン・グルーピーが誕生し、勾留されている山上のもとには数多くのラブレターや差し入れ品が連日届いているという報道もある。
山上を「下級国民の神」と表現するメディアもあり、おそらく刑事裁判が始まっても同情的な世論は維持されるであろう。
それゆえ、捜査段階での報道対応が重要なのである。東池袋自動車暴走死傷事故でも、逮捕直後の印象が決定的となり、上級国民バッシングは判決確定まで収まることはなかった。
本件ではその後、数々の誤報が明らかとなったが、捜査段階では曖昧な情報がそのまま報道されることが多い。幸三が長男に電話をかけたのは、事件発生から55分後であったが、警察は記者会見で「事故直後」と発表し報道された。この誤差が、ウェブ上で長男が隠蔽工作をした根拠にされるなどおそらく記者も想定しておらず、具体的に何分後だったのか、確認することもなかったのであろう。
加害者家族の証言によればこのような誤報は度々起きているのだが、加害者家族として声を上げることはさらなる批判を招くリスクがあり、ほとんど訂正されることはない。ネガティブな情報にさらに尾ひれがついた情報がウェブ上で拡散される現代、加害者家族の証言を伝える役割の重要性は増すばかりである。
東池袋自動車暴走死傷事故に関しては社会的関心が高く、事実訂正の記事が炎上しつつも注目されたが、社会的影響が小さいと判断された事件では、加害者家族の証言に耳を傾けるメディアなど少ないのが現状なのである。