家族が事件や事故に「巻き込まれる」ことをイメージする人はいるが、「加害者」になることまで想像する人は少ないであろう。しかし、あなたの大切な家族が他人の命を奪ってしまい、ある日突然、加害者家族になることは、特殊な人々だけが経験することではなく、日常に潜むリスクなのだ。
ここでは、2000件以上の加害者家族支援を行ってきた阿部恭子氏の著書『家族が誰かを殺しても』(イースト・プレス)から一部を抜粋。東北地方で起きた妊婦死体遺棄事件の内容を紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)
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家族に言えなかったこと
公判期日が確定した後から、私は週に一度、鈴木勝(仮名・当時30代)の面会に岩手を訪れるようになった。面会室に現れた勝は、周囲の評判通り穏やかな雰囲気で、やや緊張していたが丁寧に挨拶をして迎えてくれた。
2021年4月、はじめての面会。話題の中心は息子・光のことだった。勝は目に涙を浮かべながら、光を心配していた。
妻の鈴木理絵(仮名・当時30代)を殺害した動機について、地元メディアは、「日常的に不満を募らせていた」と報じていた。これを事実か確認すると、勝は深く頷いた。
「周りの夫婦を見ていて、どうしてそんなに仲良くできるのか、不思議でした」
確かに、勝の両親も兄弟たちの夫婦も仲が良かった。
「出会った頃に戻れたら……、今でもそう思う時があります……」
勝と理絵は、ネットのオフ会で知り合い、交際するようになった。理絵は交際当初おとなしく、物静かな女性だったという。
「あんまり待たせないでね」
理絵の言葉に急かされるように、交際から1年半が経った頃、勝はプロポーズをした。
「俺だけが払うの?」と言える勇気があったなら
結婚前の印象的なエピソードとして、勝が度々語ることがある。プロポーズ後、勝と理絵はふたりで結婚指輪を見に行き、お揃いの指輪を見つけ購入することとした。勝は、「結婚指輪は互いに贈りあうもの」と期待していたが、理絵は支払いを彼に任せたという。勝は何も言わずに代金を支払ったが、後に空しくなりひとり落ち込んでいたというのだ。
確かに、結婚指輪は男性から女性に贈るものだというイメージは今でも大きい。しかし、共働き社会になった現代では、購入方法もカップルによりけりだという。たとえ喧嘩になったとしても、ここで「俺だけが払うの?」と言える勇気が勝にあったならば、この後の悲劇は避けられたであろう。
「話してくれないとつまんない」
口数の少ない勝に対して、理絵は結婚してから、勝をなじるような言葉を口にするようになった。
「攻撃的な妻に対して私は受け身。喧嘩にもなりませんでした」