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自白を決心させた家族の姿

 剛(勝の兄、仮名)は、逮捕までの1年4か月間の子育てを、近くで見ていた。ほしいものはなんでも買い与え、甘やかしすぎだと感じることもあったという。しかし勝は、これまで父親としてできなかったことのすべてを光に与えてやりたいと考えていたのだ。

 理絵の遺体が発見された後、光を保育園に迎えに行った勝を刑事が待ち構えていた。遺体を遺棄した現場までの走行記録はカーナビに残っており、逮捕は目の前に迫っていると感じた。

 勝はすぐに警察署に呼ばれ、ポリグラフ検査にかけられることになった。「奥さんの遺体が発見されたのは山ですか、川ですか、海ですか……」といった質問にすべて「いいえ」と返答するのである。勝は反応が出ないように、事件と無関係な出来事を想像して切り抜けた。

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「妻を殺した瞬間から、事件のことが頭を離れたことはありませんでした。常に、誰かにつけられているような感覚でした」

 後ろめたさを抱えて生きるよりは、1日でも早く自首した方がむしろ楽になったのではないだろうか。

「それが……、何を今すべきなのか、その判断がわからなくなっていたような気がします」

 それから4か月間、何事もない生活が続いた。しかしその間、捜査は進行し、勝の逮捕は確実に迫ってきていた。

 任意の事情聴取が本格化した10月13日、何も知らない勝の家族は、例年のように誕生日を祝ってくれていた。

家族が誰かを殺しても』(イースト・プレス)

 勝は、生まれた頃と変わらない家族の姿に、ようやく仮面をつけて演じ続ける限界を感じた。そして翌日、警察署ですべての罪を自白した。