毎日のパワハラに我慢できなくなり、ついに…
ボースンはもちろん仕事はできますし、遠洋マグロ漁船で1年航海とかをやってきたベテランでした。マグロ漁船員はだいたい箔をつけるために10か月や1年という長い航海に行き、ケープタウンや大西洋での本マグロ漁を経験して、こうした航海期間の短い船で役職つきで働いているのだと思います。それぐらいメンツにこだわる一面があります。
ボースンから暴力を振るわれるだけでもキツイのですが、最悪なことに、このボースンと投縄チームで一緒でした。
毎回投縄の日になるとボースンと投縄をするので、そのたびにパワハラを受けていました。
「バガこの! 何やってんだこのポンスケ!」
毎回こんな感じで言われるので、私もふつふつと怒りが込み上げてきました。そしてついに我慢できなくなり、ある日の投縄が始まった夜、とうとう言ってしまいました。
「テメー、陸に上がったら見てろよ! ただじゃおかねえからな!」
まるで捨て台詞のように喧嘩を売りましたが、その場を立ち去るわけでもなく、私は餌投げ、ボースンはスナップ(ブランを固定する金具)掛けを続けていました。するとボースンはスナップのついたブランを振り回し、器用にも先端のスナップで私の頭をぶっ叩きました。
「いでー!」
激しい痛みに顔を押さえると、こめかみにスナップが当たって流血していました。痛いし熱いし、わけがわからない状態でした。その後も無理やり投縄を続け、後からボースンに説教されました。このときのボースンは怒鳴るわけでもなく、諭すように静かに話してきました。
「バガだな、おめえは。もうあんなことするなよ」
船のオモテ(船首)で傷に絆創膏を貼ってもらいました。
「はい、すいません」
私も殴り掛かって喧嘩しても構わないのですが、なんせ海の上ですから落とされたらひとたまりもありません。そうやってふと冷静に考えられたので、それ以上は事を大きくしませんでした。
でも、窮鼠猫を噛むというように、追い詰められたら噛みつくぞ! というところを見せられたのは満足でした。よくやった、俺! そんなふうに自分に言い聞かせ、寝台で毛布にくるまりました。
その後もパワハラは続きましたが、前よりは少なくなったような気がします。気のせいだったかもしれませんが。