露鵬はロシア出身で、その土地ごとの国民性がある。しかし、土俵の上で、また土俵を降りてからどのような振る舞いがふさわしいのかは大相撲にいる以上身に着けなければならないことだ。弟子を入れる時に教育も含めて全部面倒を見ていかないと後々大変な問題になってしまう。改めてそう実感した事件だった。
「お前の教育が悪いんだよ! 分かってんのか」
その後、毎日新聞のカメラマンの実家に謝罪に訪れ、カメラマンのお母さんに土下座して謝った。お母さんは「あんたね、ウチの大事な大黒柱が怪我して仕事できなかったらどうすんの?」と激怒。お叱りもごもっとも、重ねて「すみません」と謝り、事を済ませてもらった。
しかし、その前に腹立たしいことがあった。
当時まだ部屋持ちの親方になっていなかった安芸乃島(あきのしま)さんが私の所に来て胸倉を掴み、「お前の教育が悪いんだよ! 分かってんのか」と怒鳴りつけてきたのである。私の教育が悪かったのは事実であり、反論するつもりもない。
しかし、次の日には巡業部で安芸乃島さんが「貴闘力のやつシメてやったよ」と意気揚々とみんなに言いふらしているのだ。私は親方衆からそのことを聞いた。真摯に注意をされるのならまだしも、まるで見せしめのように怒鳴りつけられたことには納得がいかない。
弟子の前で怒るのはやめてほしいと頼んだら…
安芸乃島さんはその後9代高田川(たかだがわ)親方を襲名し、親方として弟子の指導をしている。2021年に新型コロナウイルスに対するガイドライン違反と女性問題の件で世間を騒がせた竜電(りゅうでん)は安芸乃島さんの部屋の所属力士だ。同じように「お前の教育が悪いんだよ!」と言ってやりたい気分だ。
仮に安芸乃島さんが竜電の件で理事長室に呼ばれても、八角や尾車に叱責されることはないだろう。なぜならそこに揃う面子はすべて反貴乃花一派だからである。最終的な処分は、竜電は3場所出場停止、安芸乃島は6ヶ月間20%の報酬減額処分となった。
昔から安芸乃島に関してはこういうことが多々あった。私の弟子も同席していた焼肉屋で「お前の態度が悪い」と怒られたことがあり、怒られるのはいいが「自分の弟子がいる前ではやめてくれ」と頼んだ。「安芸乃島も親方になったら分かるから」と言ったが、茶碗を投げて来たり、ひどいときには殴ったりすることもあった。暴力はなんであれ良くないが、自分の力を見せたいだけのような振る舞いには辟易とする。
露鵬と千代大海の場外乱闘のことも含めて、こういった点も相撲界で変えていかなければならない点である。