貴乃花を潰したい親方勢が目を付けたのは
貴乃花は4票しかもっていなかった。当選するには追加で最低でも6票必要だ。私は率直に「無理があると思うけどどうするの?」と疑問を投げかけると、返ってきた答えは「お前がなんとかしろ!」だった。無茶苦茶だが、それから私と貴乃花と貴ノ浪の3人で作戦を練った。
結果的に絶対に無理だと思われていたところから、貴乃花は理事になってしまうのであるが、これが二所ノ関一門の反感を買った。俗に言う「貴の乱」である。急がずとも待っておけばいずれ理事になっただろうが、このままじゃダメだと思うと待っていられるタイプではない。しかし、親方勢は貴乃花を潰したい。
では、貴乃花の派閥で誰が最初に潰しやすいかといったら、脇の甘い私だったというわけだ。野球賭博の一連の事件によって、私は早々にクビを切られてしまった。
八百長は私たちの時代は当たり前にあった。上に立つ横綱・大関は下の者に星を配る。星一つで約80万円だ。進退がかかる者は、ガチンコで挑んでイチかバチかの勝負をするよりも、星を融通し合って良い位置を目指すこともあるだろう。
「貴乃花イズムが消えたわけではない」
私は相撲が好きだからこそガチンコ勝負こそが正しい姿勢だと思っているが、私の考えと反対の考えがある。あちらからすれば、私のほうが間違っていると思っている。その戦いを続けてきた。強いやつが一番上に立ち、一番頑張ったやつが一番金をもらうほうがいい。
そのずっと心の中で思ってきたことを、貴乃花が「オレが新しい相撲協会を作りますよ。協力してください」と言って実行しようとしてくれた。貴乃花一派に賛同してくれる人もいくらかいたが、実際の中心は貴乃花と私と益荒雄(ますらお)さんと貴ノ浪だった。
ところが、貴乃花がどういう考えでいるかを何も教えてもらえなかったので、最終的に分裂してしまった。戦いにはそのまま敗れてしまうが、貴乃花イズムが消えたわけではない。
それがどこまで浸透するかが今後のカギとなるだろう。