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「親方が特別扱いしなければ貴乃花はもっと…」“貴の乱”で親方勢に“ガチンコ勝負”で負けてしまったワケ《貴闘力がみた若貴兄弟の性格の違い》

『大相撲土俵裏―八百長、野球賭博、裏社会…相撲界の闇をぶっちゃける』#6

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「トレーニングに来る光司」「断ってデートに行く勝」

 私は若貴がどれだけ大事に育てられてきたかを知っていたので、入門後も2人のトレーニングの面倒を見てやり、稽古が終わって夜に「飯でも食いに行くか」と金もないのに誘って行った。それを知ったおかみさんが私の財布の中に5万とか10万とか黙って入れてくれることもあった。気前のいい人だった。

 もし、若貴が入門後に雑用係として朝から晩までこき使われていたら、1年半で十両に上がることもなかっただろう。期待に応えた2人はもちろんスゴイのだが、雑用する間もないほど稽古していたのも事実だ。

 兄弟そろって横綱となった若貴兄弟は、かなり性格が違っていた。

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夏場所の番付け表を手にする左から貴花田、新小結の貴闘力、若花田(東京・中野の藤島部屋)©時事通信社

 私がトレーニングに一緒に行こうと誘うと、真面目な光司は毎日ついて来たが、勝は「ちょっとすみません。デートで」と調子の良いことを言うような面もあった。

 貴乃花とはトレーニングセンターで一緒にトレーニングして、そのままご飯を食べるというのを毎日やっていた。寝ているときにキュッキュッと音がするなと思うと、貴乃花がずっとグリップを握っている音だったり、夜中の1時半頃にゴンゴンと音がするなと思ったら、貴乃花が鉄砲をしていたこともあった。

同期生の曙に追いつくべく、意欲的なけいこを続ける貴花田(愛知・蟹江町の藤島部屋)©時事通信社

若貴が十両に昇進すると雑用係が復活

 貴乃花はとにかく稽古をする男だったが、若乃花と貴乃花のどちらが素質あるかと言えば若乃花かもしれない。相撲のセンスを言葉で伝えるのは難しいが、とにかく膝から下の力が強かった。膝から下の力が強くないと、体が大きかろうが小さかろうが軽く感じてしまう。膝下の力がとにかく強かったので、200キロの相手でも対等に戦えたし、投げられても踏ん張ってうっちゃったりができた。

 親方が良くないと思うのは、若貴が十両に上がってから雑用は全員でやるというルールを撤廃したことだ。元に戻したのである。それが私は良くなかったと思っている。そのまま続けていれば最高の藤島部屋だっただろう。

 もし貴乃花が雑用も平等に全部やっていたら、下の人間の気持ちもくみ取れるようになっていたかもしれない。貴乃花は自分の考えを伝え、相手の考えを汲むという点には少し欠けているように思う。人の気持ちが分かる貴乃花だったら協会の運営もスムーズにいったのではないかと感じずにはいられない。

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