競馬史上初となる3頭の三冠馬対決――2020年のジャパンカップを見事制したアーモンドアイの勇姿をお届け。三冠馬のコントレイルとデアリングダクトとの厳しい戦いを彼女はどう制したのか?

 競馬ライター小川隆行氏の新刊『競馬 伝説の名勝負 G1ベストレース』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

2020年のジャパンカップを制したアーモンドアイ (写真:時事通信)

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「つまらない」――コロナが競馬にもたらしたもの

 世界中を襲った2020年のコロナ禍。感染による死亡者が増えるにつれ、世の中は一変した。人との接触を避けて身を守る。これにより日常生活は大きく変わった。

 通勤・通学者は大きく減り、飲食店から灯りが消えた。街を歩く人の数は減り、救急車のサイレンを毎日のように聞くようになった。

 センバツ高校野球は中止、プロ野球は開幕が遅れた上に無観客開催。野球以外のスポーツも軒並み開催を見送った。

 競馬は中止にこそならなかったが、プロ野球同様に無観客。GIレースにつきものの大歓声は消え、静寂の中でレースが行われる。応援する馬、馬券を買った馬の走りを生で見ていたファンは、その興奮を味わえなくなった。

「競馬がつまらない」――こんな声さえ聞こえてきたが、現場派の私も同感だった。地元の中山や、少し離れた東京に足を運べず、パドックと返し馬が映像でしか見られない。馬券を当てた興奮の度合いも以前より小さくなっていた。みんなで声を出しながら馬券を買い、当たっても外れても仲間と酒を飲む。こうした週末の楽しみが不可能となってしまった。

 そんな中、信じられぬ奇跡が起きた。秋華賞でデアリングタクトが史上6頭目&史上初の無敗三冠牝馬になると、翌週の菊花賞で史上8頭目の三冠馬コントレイルが誕生。さらに翌週の天皇賞・秋で、GI7勝の三冠牝馬アーモンドアイが8勝目をマークした。史上最強馬と言われたシンボリルドルフとディープインパクトを上回る新記録である。

 3週連続で起こった奇跡は競馬界を明るくしてくれた。同時に世の中の感染者も減少したことで、入場制限付きで競馬場が開放された。

 そして、競馬史上初となる3頭の三冠馬対決が、ジャパンCで実現した。