ヨークは「米国で最も危険な100の都市」で61位に
最初のうちは気になって音の間隔で聞き分けようとしたが、やがて、すべて花火の音だと思うようにした。これも一種の脳内変換だ。気にしたところで、自分にはどうすることもできないし、精神衛生上もよくないからだ。
それは現実から目と耳を背けることかもしれない。だが、そうしなければここで生きていくことはできない。
ヨークに住むにあたって、一番気をつけたのが治安だ。
ヨークが決して治安のいい町ではないことは、否定できない事実だ。
「ネイバーフッド・スカウト」というサイトが毎年発表する「米国で最も危険な100の都市」というランキングの2020年版によると、ヨークは61位に入っている。
このランキングの対象は人口2万5000人以上の都市だ。その数はおよそ1500都市にのぼるので、米国の都市の中ではかなり危険な都市ということになる。
ヨーク市内にはアジア系の住民は少なく、自分の近所では一度も出会ったことがなかった。露骨にじろじろと見られるようなことはないが、どうしても目立ってしまうことは確かだ。
ごみが多い通りは荒んだ空気が漂っている
そこで少しでも溶け込むため、まずは地元のリサイクルショップでTシャツを買った。普段仕事用に使っていた鞄も使うのをやめた。この町で、数百ドルもするTUMIのバッグを使う人など、まず見かけないからだ。代わりに自転車用に使っている古いメッセンジャーバッグを肩からかけて町を歩いた。家にはなるべく、日が暮れるまでに帰るようにした。
市内のあちこちを歩くうちに、問題がない場所と、気をつけたほうがよい場所が何となく区別できるようになってきた。同じ地域の中でも、歩いてみるとブロックやストリートごとに、微妙な違いがあるのだ。同じような家が並んでいても、空き家が多かったり路上にごみが多かったりする通りには、どこか荒んだ空気が漂っている。
私が住んでいる通りは、道路の両側に同じようなつくりのタウンハウスが並んでいる。ケリーのようにオーナーが賃貸住宅として貸し出している物件が多いらしく、たまに売り出し中の看板が出ている。
タウンハウスから斜め向かいの交差点には、小さな雑貨店がある。薬物の影響だろうか、店の前をおぼつかない足取りで歩いたり、しゃがんだりしている男性をたまに見かけるが、特にトラブルを起こすわけでもない。