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夜に「パン、パン」と銃声、「戦場のような事件」も起こり…“アメリカ危険都市”に住んだ朝日新聞記者の現場報告

『「断絶」のアメリカ、その境界線に住む ペンシルベニア州ヨークからの報告』より #1

2022/12/05
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物理的な移動に精神が適応できない理由

 コロナ禍が深刻な間はアパートの1階にあるスシ・レストランは閉まっていたが、感染が落ち着いて店が再開すると、様々な人種や民族の人たちが店先のテーブルに座り、食事を楽しんでいた。

 豊かで多様な、典型的な今どきの大都市郊外の光景だ。

 ヨークに部屋を借りた当初は、荷物の引っ越しもありヨークとワシントンを頻繁に行き来していた。2週間ほどそんな生活をしていると、経験したことのない違和感を覚えるようになっていった。

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 仕事柄あちこちに出張をするので、自宅とは別の場所に寝泊まりすることには慣れている。ただ、そうした出張のときでも、このような落ち着きのない感覚を覚えることはなかった。

 最初は理由がわからなかったが、やがてこう考えるようになった。

 1つの国なのに2つの世界があまりに違いすぎて、物理的な移動に精神が適応できないのではないか――。

どちらか一方は現実ではないような、奇妙な感覚

 思い出したのは、映画「AVATOR(アバター)」の一場面だ。

 異星人が住む星に送られた主人公のジェイクは、自分の体と異星人のアバター(分身)をリンクさせ、眠っている間は異星人の1人として彼らと交流を深めていく。

 人間と異星人の世界を行き来するジェイクはやがて、目が覚める瞬間に、どちらが自分にとって“本物〞の世界なのか自問するようになる。

 私も目が覚めるとき、「今日はどっちにいるんだっけ?」と一瞬考えるようになった。ヨークの部屋の天井は、白い壁紙がところどころはがれている。それが目に入ってくれば、ヨークにいる証しだ。

 やがて生活の中心をヨークに置き、ワシントンには用事があるときや週末に気分転換をしたいときに戻るというリズムをつくった。それでも、どちらか一方は現実ではないような、奇妙な感覚が消えることはなかった。

 やがて、こんな思いが募るようになった。

 1つの国に、これほど違う世界があっていいのだろうか?

夜に「パン、パン」と銃声、「戦場のような事件」も起こり…“アメリカ危険都市”に住んだ朝日新聞記者の現場報告

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