米大統領選挙や中間選挙で激戦州として注目されるアメリカ・ペンシルベニア州。その州の小さな町・ヨークに移り住み、“断絶”されたアメリカ社会のリアルを取材したのが、朝日新聞記者の大島隆氏だ。

 ここでは、大島氏の著書『「断絶」のアメリカ、その境界線に住む ペンシルベニア州ヨークからの報告』(朝日新聞出版)から一部を抜粋。銃と暴力の恐怖が隣り合わせにあるヨークの実態を紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)

写真=著者提供

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ろうそくに囲まれた1枚の遺影

 2020年11月の大統領選挙を終えた米国は、落ち着きを取り戻すどころか、大きな混乱に陥っていった。

 トランプは大規模な選挙不正があったという根拠のない主張を展開し、翌年1月6日にはトランプ支持者たちが連邦議会議事堂を襲撃するという、米国の民主主義を揺るがす事件が起きたのだ。その後のバイデン新政権発足の取材もあり、大統領選挙が終わってからはワシントン中心の生活となり、ヨークには月に1、2回訪れる程度だった。

 再びヨークに滞在するようになったのは、3月下旬になって冬の寒さが和らぎ始めたころからだ。このころには新型コロナワクチンの接種も本格的に始まり、オフィスも少しずつ再開し始めていた。私は生活の重心をワシントンに移しつつも、週末や休暇中はヨークに滞在する二重生活を続けた。ワシントンとヨークは車で1時間半ほどの距離なので、気になる会合やイベントが平日にあるときも、なるべく訪れるようにしていた。

 2021年4月初旬のある日、タウンハウスを出て町の中心部に向かって歩いているときのことだ。いつも通る路地で、一軒の玄関横に何十本ものろうそくが置いてあるのに気づいた。

 ろうそくに囲まれた中央には、1枚の少年の写真があった。遺影だ。

 青いパーカをかぶった、まだあどけなさの残る少年の写真には、別れの言葉が寄せ書きされていた。「愛している」といった言葉の中に、「ギャングのくそったれ」という言葉もあった。

市中心部に監視カメラを設置する最大の目的

 この町では、銃と死はあまりに身近な存在だ。

 単なる発砲事件は頻繁に起きるため警察も発表はしないが、死者やけが人が出た銃撃事件は、警察が事件の概要をウェブサイトで公表する。ギャングの犯罪が多いヨークでは、加害者も被害者も若者が非常に多く、10代も珍しくない。

 私たちの家から歩いて10分ほどの市内の一角は、ギャングが集まる場所として知られ、地元住民は「ジャングル」と呼ぶ。ギャングといっても組織的に麻薬密売をするようなグループから、友達同士の少年数人のグループまである。