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16歳の黒人少年が「銃弾が背中から胸を貫通」した状態で発見され…朝日新聞記者が明かす“アメリカ危険都市の実態”

『「断絶」のアメリカ、その境界線に住む ペンシルベニア州ヨークからの報告』より #2

2022/12/05
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 私はこの計画を聞いたときに、警察に不信感を持つ黒人やヒスパニック住民の多くは、反対だろうと推測していた。ただ、実際に銃と暴力の恐怖に直面している住民の声は、必ずしも反対一辺倒ではなかった。

 発言を求めた1人の黒人女性は、「私は暴力の真っただ中に住んでいます」と言って、こう訴えた。

「毎週末、外に人気がなくなると銃声が聞こえてきます。私の車には銃弾の穴がたくさんあります。あるときの銃撃事件では、後で警察が数えたら私の家の周りで100発もの薬莢が見つかったのですよ。私たちはこの地域から出て行きたくても、引っ越して別の場所に住むお金がないのです」

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 女性の訴えは切実だった。「私は監視カメラに賛成です。私が知りたいのは、監視カメラを設置して、すぐに警察が来てくれるのかどうかということです」

子供の命が銃弾で失われるのを見たくない

 この日、会場が最も静まりかえったのは、別の年配の白人女性が立ちあがったときだった。

 女性は「自分の家の前で起きたことを話させてください」と語り始めた。

 女性の自宅前では3月、16歳の黒人少年が銃撃される事件が起きた。家を出た女性は倒れている少年に救命措置を施したが、銃弾は背中から胸を貫通しており、少年はその場で息絶えた。

 逃走した容疑者は、15歳の黒人少年だった。

「子供が子供に撃たれるなんて……。こんなことは決して起きるべきではありません」。女性は話している途中で感極まり、声を詰まらせた。

「私には何が答えなのかはわかりません。ただ、私たちは子供たちのために何かをしなければなりません。私たちは皆、この町のことを大切に思っているはずです。これ以上、子供の命が銃弾で失われるのを、見たくないのです」

©iStock.com

子供を巻き込んだ銃と暴力の連鎖

 事件については、発生当時に地元メディアの報道を読んだ記憶があった。家に戻ってから当時の記事を読み返してみた。

 加害者の15歳の少年は事件直後に逃走しており、警察が手配写真を公開していた。まだ産毛で十分に生えそろっていない口ひげが、少年の幼さを物語っていた。

 そして事件は、これで終わりではなかった。事件の数日後、殺された少年の37歳のおじが、復讐と称して別の13歳の少年を銃撃していたのだ。加害者と間違えて撃ったのか、加害者が見つからないので代わりに仲間を撃ったのかはわからないが、子供を巻き込んだ銃と暴力の連鎖が起きていたのだ。

 この市民フォーラムからさらに数カ月後、事件のことをもう一度調べていて、あることに気づいた。

 記事の中にある事件現場の写真を見ていたときのことだ。現場に並べられた追悼のろうそくが、私の家の近所にあった、あのろうそくと似ているのだ。