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16歳の黒人少年が「銃弾が背中から胸を貫通」した状態で発見され…朝日新聞記者が明かす“アメリカ危険都市の実態”

『「断絶」のアメリカ、その境界線に住む ペンシルベニア州ヨークからの報告』より #2

2022/12/05

麻薬の密売だけでない、様々な問題

 この男性と警察官がやりとりをしている間に、1人の黒人男性が発言を求めて手を挙げた。長年黒人の地位向上に取り組んできた全国組織NAACP(全米有色人種地位向上協会)のヨーク支部長、リチャード・クレイグヘッドだ。

「麻薬密売人は火事になった家で焼かれればいいとあなたは言ったが、彼らがなぜそういう人生を送るようになったかを考えてほしい」

 クレイグヘッドは続けた。「たくさんの黒人やヒスパニックの若者は、密売人になるしかない環境で育つ。何の希望もなく、身の回りで唯一お金を稼いでいるのが、密売人という環境だ。もちろん、麻薬の密売はやめさせる必要がある。しかし、密売人を責めるだけで問題が解決するわけではない。幼少期に彼らが親にどう育てられたか、学校から刑務所のパイプライン、システミック・レイシズム、住宅など様々な問題がある」

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「学校から刑務所のパイプライン」とは、生徒の非行への厳罰化が徹底され、学校から刑務所という人生をたどる若者が増えている近年の傾向を指す。

 密売人になる以外に道がない人生。思い出したのは、ボルティモアの少年たちを描いた映画「Charm City Kings(チャームシティー・キングス)」だ。

「どんな人であれ救われる。希望を捨てるべきじゃない。」

 ヨークは、「ミニ・ボルティモア」と呼ばれる。同じように低所得のマイノリティーが多いインナーシティーが市内に広がり、貧困や犯罪などの課題を抱えるからだ。

 映画は、ヨークの少年たちと同じように、ダートバイクに乗る少年たちを描く。映画に出てくる街の様子や、ダートバイクで集団走行をする少年たちは、ヨークで目にする光景とそっくりだ。

 主人公の14歳の少年「マウス」はある日、一人親の母親が電気代を払えず、家の中で涙を流しているのを目撃する。母親を助けるため金を稼ごうとした少年は、地域のリーダー格の男性に、ダートバイクで荷物を配達する仕事をさせてほしいと頼む。彼らが運ぶ「荷物」とは、麻薬だった――。そんなストーリーだ。

「麻薬密売人は火事で焼かれればいい」と吐き捨てるように言った男性に対して、クレイグヘッドは最後にこう話した。

「麻薬の密売人を一掃すればいい、殺せばいいというのは間違った考え方だ」

 しかし、男性も引き下がらなかった。

「あいつらのドラッグだって人を殺しているんだ。あいつらは人を殺している。それなのにあんたは、あいつらに共感し、同情しろというのか?」

 結局最後は警察官が、「どんな人であれ救われる。希望を捨てるべきじゃない。コミュニティーが1つになって、対処する方法を考えよう」と引き取った。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

16歳の黒人少年が「銃弾が背中から胸を貫通」した状態で発見され…朝日新聞記者が明かす“アメリカ危険都市の実態”

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