前に住んでいた住民が残していった追悼のろうそく
事件や事故の現場に犠牲者を追悼するろうそくが並べられるのは、一般的なことだ。ただ、念のためと思って、以前にスマートフォンで撮影した近所のろうそくの写真を、もう一度拡大して見てみた。
「RIP TYREE」。ろうそくが入ったグラスには、こう書かれていた。「安らかに眠れ(Rest In Peace) タイリー」――それは、市民フォーラムで女性が口にした名前と同じだった。
あのろうそくは、殺された16歳の少年を追悼するものだったのだ。
翌日、あのろうそくがあった近所の路地に向かい、家のドアをノックした。
出てきたのは、若い黒人とヒスパニックの男性2人だった。事情を説明し、以前ここにあったろうそくのことを知らないかと聞いてみた。
応対してくれた黒人の青年によると、ろうそくは自分たちではなく、その前に住んでいた住民が残していったものだった。彼らが入居してからもたまに追悼に訪れる人がいたので、しばらくの間はそのままにしておいたのだという。
「事件のことは知っているよ。まだ若い子供だろう? 狂っているよ……」
それ以上、彼の口からも私からも、言葉が出てくることはなかった。しばらくの間の重苦しい沈黙の後、礼を言って路地を離れた。
私たちは何かをしなければならない――。
治安をコントロールできていない警察に怒りが爆発
あのフォーラムで、女性は涙ぐみながら訴えた。その思いは、多くの市民が共有しているはずだ。ただ、この町が抱える問題はあまりに根深く、複雑に絡み合っている。どこから手をつけたらいいのかすら、わからないほどだ。
ヨーク市警察が定期的に開く対話集会でも、住民たちのもどかしい思いが垣間見えた。
ある対話集会を取材したときのことだ。初老の白人男性が、日頃からの警察への不満をぶちまけた。
「市内では、あんたたちが把握している2倍、3倍の銃撃事件が起きている。銃撃事件を捜査せず、駐車違反や車検切れの摘発ばかりやっている。あんたたちはもう、市内の治安をコントロールできていない。州警察や市外の保安官事務所に助けを求めるべきだ」
男性のいらだちはおさまらず、今度は市内の花火をなんとかしろと訴え始めた。
「私は火事を心配しているんだ。もし家が焼けるときには、あのくそったれの麻薬密売人たちも家の中で焼かれてしまえばいいんだ。あいつらはそこらじゅうにいるのに、あんたたち警察は何もしないからな」