「ひいいいっ!」――河川敷を散歩していた男が見つけたのは、ポリバケツに入れられた人間の切断遺体だった……。のちに21歳、デートクラブで働く女性とわかる彼女はなぜ殺されたのか?
ノンフィクションライターの小野一光氏の新刊『昭和の凶悪殺人事件』(幻冬舎アウトロー文庫)より一部抜粋してお届けする(全2回の2回目/前編を読む)
*登場する人物名や店舗名はすべて仮名です。
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5個のポリバケツから見つかった死体
昭和50年代の年末にその事件は発覚した。
近畿地方B県B市の河川敷を散歩していた戸田隆は、5個の蓋がされたポリバケツが野ざらしになっているのを見つけ、その一つをなにげなく棒で突いて倒した。
「ひいいいっ!」
倒れたバケツの蓋が外れ、そこから明らかに人間のものだとわかる、切断された胸部と臀部(でんぶ)が出てきたのだ。
戸田は慌てて河川敷から公衆電話のある場所へ向かうと、110番通報した。
すぐにB警察署から捜査員が駆けつけ、県警本部からも捜査員が集まった。ポリバケツはすべてB警察署に移され中身が取り出されたが、それらは手首から先のない両腕に両足、肉片や臓器などで、被害者の特定に必要な頭部と両手は見つからなかった。
ただちに捜査本部がB警察署に設置され、本格的な捜査が始まった。
バラバラ死体は、翌日には大学病院で解剖され、その結果、死体は血液型A型の女性で、年齢は10代後半から30代。死後すでに2、3カ月が経過していることが判明した。
ただ残念なことに、死体には手術痕や傷あと、あざ、ほくろなど、本人特定に繋がる特徴は見当たらなかった。
被害者は18〜22歳の女性
バラバラの死体から被害者を特定するために、身長を推定する作業が始まった。
当初は身長158から175センチメートルという大きな幅しか割り出せなかったが、整形外科医の協力を得て、バラバラになっている骨格を継ぎ合わせ、女性の平均値と比較するなどした結果、身長165センチメートルからプラスマイナス2、3センチメートルという推定身長に辿り着いた。また、年齢についても子細に検討して、18歳から22歳であると推定された。
一方で、遺棄現場周辺への聞き込みで、ポリバケツはもともと遺棄場所から西に50メートルほど先の竹藪内に捨てられていたが、発見の2日前に竹藪の所有者が不法投棄されたゴミだと判断して、河川敷に動かしていたことがわかった。
さらに竹藪などの捜索で、ポリバケツのほかにポリ袋とロープ、金鋸(かなのこ)の刃、生理用ナプキンなどが発見され、これら遺留品の販売経路が捜査されることになった。
すると、すべての物品を揃って購入できるのは、X県Y市であることが判明したのである。