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河川敷のポリバケツには“21歳女性の一部”が…前科3犯男が招いた「デートクラブバラバラ事件」の無情

『昭和の凶悪殺人事件』 #2

2022/11/27
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 そこで、X県内での行方不明者との照会作業を続けたところ、同年夏に母親からX県警に捜索願が出されている、21歳の高木綾という女性が浮上した。

 彼女は年齢のほかに、身長が165センチメートルで、Y市に居住しているなど、捜査本部が探していた被害者の条件と共通している。

 そこで綾についての身元確認の捜査を続けたが、思うように進展しない。捜査が膠着(こうちゃく)するなか、ある捜査員が声を上げた。

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「綾さんは高校に行ってたし、どこかで胸部のレントゲン写真は撮ってないですかね」

 ただちに綾の母親に問い合わせたところ、高校一年時にY市内のN総合病院で、レントゲン写真を撮影していた事実が明らかになった。捜査員が同病院に赴(おもむ)いて写真を探し出してもらったところ、1枚の写真が発見され、提出を受けたのである。

写真はイメージです ©getty

 その写真の画像は複数の大学の専門家によって死体の胸部レントゲン写真と対照された。すると、脊椎(せきつい)の曲がり状況や肋骨各部の特徴的形状から、発見された死体はN総合病院で撮影された、綾のレントゲン写真と同一人物である可能性が極めて高いという鑑定結果が出たのだった。

「ここはひとつ、被害者は綾さん一人に絞ってやってみよう」

 捜査本部内でそうした決定が下され、彼女の家族から綾の所持品の提出を受け、身元確認作業が進められた。すると、ノートの1冊から足紋と思われる紋様が発見されたのである。その紋様を死体の足紋と対照したところ一致。その結果から死体は綾のものであると断定された。

「手足を切って捨てれば身元はわかりはしない……」

「綾さんは事件に巻き込まれる直前、デートクラブで働いていたようだ」

 Y市内の高校を卒業してスチュワーデス(現キャビンアテンダント)を目指した彼女は、上京して英語の専門学校に通うなどしていたが、途中で生活苦からキャバレーで働くようになり、夢を諦めてしまう。やがて地元に戻り、レストランを経営する男性と見合い結婚をしたが、義母との折り合いが悪く、数カ月で離婚。それから職を転々とした末に、Y市内のデートクラブ「フラワー」で働くようになったのである。

 そこで捜査員が「フラワー」の経営者への事情聴取を実施したところ、次の話が出てきた。

「あの子は×月×日にマッサージクラブ『ミラクル』の川越という男のところに、『前の恋人から取り立ててもらったおカネを取りに行く』と言って、普段着のまま出ていったきり、帰ってこないんです」

 綾は「フラワー」で働く前に、その川越伸也という男が経営する「ミラクル」で働いていたという。そこで綾の「前の恋人」である池田一郎を捜し出して聴取したところ、綾が彼に貸し付けていた現金215万円を、綾の代理で借金の取り立てに来た川越に手渡していた事実を突き止めたのである。